はじめに:「あれ?昨日まで楽しそうだったのに…」という戸惑い
「ママ、今日は習い事行きたくない」
朝の支度をしている時、玄関で靴を履く直前、あるいは教室の前で急にそう言われて、胸がぎゅっと締め付けられた経験はありませんか?
昨日まであんなに楽しそうに通っていたのに、先週は「先生大好き!」と言っていたのに、一体何があったのだろう…そんな困惑と不安でいっぱいになってしまいますよね。
私は、モンテッソーリ教師として10年間、保育現場で数百人の子どもたちと向き合ってきました。そして、自分自身も3歳の息子を持つ母親として、「習い事、行きたくない」という言葉に何度も心を揺さぶられてきました。
実際、私の息子も2歳半でリトミック教室に通い始めた頃、最初の2ヶ月は目をキラキラさせて通っていたのに、ある日突然「もう行かない」と言い出したのです。その時の私の動揺と言ったら…。「まだ始めたばかりなのに」「月謝がもったいない」「他の子はちゃんと通っているのに、うちの子だけ…」と、様々な思いが頭の中をぐるぐる回りました。
でも、保育の現場で多くの子どもたちを見てきた経験と、発達心理学の知識、そして何より息子との向き合い方を通して学んだのは、子どもが「行きたくない」と言うのは、決して悪いことでも、親の失敗でもないということです。
むしろ、それは子どもが自分の気持ちをきちんと言葉で表現できるようになった成長の証であり、親子でより深い関係を築いていくための大切なきっかけなのです。
この記事では、幼児期の子どもが習い事を嫌がる時の心理的背景から、具体的な対処方法、そして長期的な視点での関わり方まで、専門家としての知識と実体験を交えながら、丁寧にお伝えしていきます。
第1章:なぜ子どもは突然「行きたくない」と言い出すのか?〜幼児期の心の動きを理解する〜
1-1:発達段階から見る「拒否」の意味
幼児期の子どもが習い事を嫌がる背景には、この時期特有の発達段階が深く関わっています。
**2歳〜3歳の「自我の芽生え期」**では、子どもは自分の意思を主張することを覚え始めます。この時期の「イヤ」や「行きたくない」は、単なるわがままではなく、自分という存在を確立しようとする重要な発達プロセスなのです。
私が保育現場で出会ったケースをご紹介しましょう。2歳8ヶ月のりんちゃん(仮名)は、英語教室に通い始めて3ヶ月が経った頃、急に「英語、もうやだ」と言い出すようになりました。お母さんは「最初はあんなに楽しそうだったのに、何がいけなかったのでしょう」と心配されていました。
しかし、よく観察してみると、りんちゃんは他の場面でも「自分で決めたい」という気持ちが強くなっていることがわかりました。服を選ぶ時、おやつを選ぶ時、遊ぶおもちゃを決める時…あらゆる場面で「りんちゃんが決める!」と主張するようになっていたのです。
つまり、英語教室への拒否反応は、りんちゃんなりの「自分の意思で物事を決めたい」という成長の表れだったのです。
**3歳〜4歳の「社会性発達期」**では、他の子どもとの比較や、集団の中での自分の位置を意識し始めます。「あの子はできるのに、自分はできない」という気持ちや、「みんなと同じようにできないと恥ずかしい」という感情が芽生える時期です。
**4歳〜5歳の「自立心確立期」**では、より複雑な感情を抱くようになり、「今日は気分が乗らない」「なんとなく嫌」といった感情的な理由での拒否も見られるようになります。
1-2:子どもが感じる「習い事のプレッシャー」
大人には見えにくいのですが、幼児にとって習い事は思っている以上にプレッシャーを感じる場面でもあります。
「できなくちゃいけない」という無言のプレッシャー
習い事の現場では、どうしても「上達」や「できるようになること」が目標として設定されがちです。先生の期待、お友達との比較、そして何より「頑張っている姿を見せたい」という親への思い…これらが積み重なって、子どもの心に重荷となることがあります。
私の息子の場合も、リトミック教室で他の子たちがリズムに合わせて上手に体を動かしているのを見て、「ぼくはできない」という気持ちが強くなっていたことが後からわかりました。2歳半の子どもなりに、「みんなみたいに上手にできないから、行きたくない」と感じていたのです。
新しい環境への不安と疲労
習い事は、家庭や保育園・幼稚園とは異なる「第三の環境」です。新しい先生、新しいお友達、新しいルール…これらに適応することは、大人が思う以上に子どもにとって大きなエネルギーを必要とします。
特に、内向的な性格の子どもや、変化に敏感な子どもにとっては、毎回新しい環境に身を置くこと自体がストレスになることもあるのです。
1-3:季節や体調による影響
見落としがちですが、子どもの習い事への態度は、季節の変化や体調にも大きく左右されます。
季節の変わり目の影響
春から夏にかけて、秋から冬にかけてなど、季節の変わり目は子どもの体調や情緒が不安定になりやすい時期です。大人でも「なんとなく調子が出ない」と感じることがありますが、子どもはそれを言葉で上手に表現できないため、「習い事に行きたくない」という形で表現することがあります。
成長による疲れやすさ
幼児期は急激な成長期でもあります。身体の成長に伴う疲れやすさ、脳の発達による情報処理の負担増加など、大人には見えない疲労が蓄積していることもあります。
特に平日に保育園や幼稚園に通い、さらに習い事もとなると、大人が思う以上にハードスケジュールになっていることも珍しくありません。
第2章:「行きたくない」と言われた時の初期対応〜その場での適切な声かけと行動〜
2-1:まずは深呼吸〜親の心の準備〜
子どもに「習い事に行きたくない」と言われた瞬間、多くの親御さんの頭の中には様々な思いが駆け巡ります。
「せっかくお金を払っているのに…」 「他の子はちゃんと通っているのに…」 「このまま続けられなくなったらどうしよう…」
これらの気持ちは、子どもを思う親として当然の反応です。しかし、この瞬間の親の反応が、その後の子どもとの関係や、習い事への向き合い方を大きく左右することも事実です。
まずは、深呼吸をして、ご自身の気持ちを一度整理してみてください。
私自身、息子に「リトミック行きたくない」と言われた時、最初の反応は「えっ、なんで?楽しそうだったじゃない」という困惑でした。でも、その後すぐに「もったいない」「どうして急に」という気持ちが湧いてきて、息子の気持ちよりも自分の戸惑いや焦りの方が大きくなってしまっていたことを覚えています。
そんな時に思い出していただきたいのは、子どもの「行きたくない」という気持ちは、今この瞬間の素直な感情表現だということです。それを受け止めることから、すべてが始まります。
2-2:子どもの目線に合わせた初期対応
「そうなんだね」から始める共感
子どもが「行きたくない」と言った時、まず大切なのはその気持ちを否定せずに受け止めることです。
「そうなんだね、今日は行きたくない気分なのね」 「そう感じているんだね」
このように、まずは子どもの気持ちをそのまま受け止める言葉をかけてあげてください。この時、理由を聞いたり、説得したりする必要はありません。まずは、子どもが自分の気持ちを安心して表現できたという体験を作ることが重要です。
「なんで?」よりも「どうしたの?」
理由を知りたいのは親として当然の気持ちですが、「なんで急に行きたくないの?」という問いかけは、子どもにとってプレッシャーになることがあります。
特に幼児期の子どもは、自分の感情を言語化することがまだ上手ではありません。「なんで?」と聞かれても、「わからない」「なんとなく」という答えしか返せないことも多いのです。
代わりに、「どうしたの?」「何か気になることがあるの?」といった、より開かれた質問を使ってみてください。これにより、子どもは自分のペースで気持ちを表現しやすくなります。
2-3:時間的余裕を持った対応
「今日はお休みしてもいいよ」という選択肢
この言葉を口にすることに抵抗を感じる保護者の方も多いかもしれません。「一度休ませたら、それが当たり前になってしまうのでは?」「継続することの大切さを教えられないのでは?」という心配は、とても理解できます。
しかし、私の経験上、子どもの気持ちが不安定な時に無理やり連れて行くことで得られるものよりも、失うものの方が大きいことが多いのです。
実際に、息子がリトミックを嫌がった時、私は最初の2回は「でも今日は行こうね」と説得して連れて行きました。その結果、息子は教室にいる間中不機嫌で、先生やお友達との関わりも消極的になってしまいました。そして、習い事自体への嫌悪感がより強くなってしまったのです。
3回目に嫌がった時、私は思い切って「今日はお休みしようか」と提案しました。息子は安堵の表情を見せ、その日は家でゆっくりと過ごしました。そして数日後、自分から「今度はリトミック行ってみる」と言い出したのです。
「また今度一緒に考えよう」という安心感
子どもが習い事を嫌がった時、その場ですべてを解決しようとする必要はありません。むしろ、「今度ママ(パパ)と一緒に考えようか」という言葉をかけることで、子どもに安心感を与えることができます。
この言葉には、いくつかの大切な意味が込められています:
- 子どもの気持ちを尊重していることを示す
- 一人で解決しなくてもいいという安心感を与える
- 親子で一緒に向き合うという協力的な姿勢を伝える
- 時間をかけて考えてもいいという余裕を示す
2-4:習い事の先生との連携
その日のうちに先生に連絡を
子どもが習い事を休んだ場合、できればその日のうちに先生に状況を伝えることをお勧めします。これは単なる欠席連絡ではなく、子どもの気持ちの変化を先生と共有するための大切なコミュニケーションです。
「今日は本人が『行きたくない』と言ったため、お休みさせていただきました。理由はまだはっきりしないのですが、また様子を見ながら相談させてください」
このような連絡をすることで、先生も子どもの状況を理解し、次回からより適切なサポートをしてくれるようになります。
先生からの視点も大切に
習い事の先生は、保護者には見えない子どもの様子を客観的に観察しています。「最近、少し元気がなかったように思います」「お友達との関わりで何か気になることがありました」など、家庭では気づけない変化に気づいていることもあります。
私の息子の場合も、リトミックの先生から「最近、他のお子さんと比べて自分を評価しているような様子が見られました」という指摘をいただき、息子なりのプレッシャーを理解することができました。
第3章:理由を探る〜子どもの本音を引き出すコミュニケーション術〜
3-1:子どもが話しやすい環境づくり
リラックスした時間と場所を選ぶ
子どもの本音を聞き出そうとする時、多くの保護者が間違えやすいのは、「きちんと向き合って話し合おう」と改まった雰囲気を作ってしまうことです。
幼児期の子どもにとって、正面から「どうして習い事に行きたくないの?」と質問されることは、尋問されているような感覚になることがあります。
代わりに、一緒に遊んでいる時、お風呂に入っている時、寝る前の絵本タイムなど、自然でリラックスした場面で、何気なく話題を振ってみてください。
私が息子の気持ちを聞けたのも、お風呂で一緒に遊んでいる時でした。「今日は楽しかったね。そういえば、リトミックのこと、どう思ってる?」と軽い調子で聞いてみたところ、息子は湯船に浮かべたおもちゃで遊びながら、ぽつりぽつりと自分の気持ちを話してくれました。
子どもの興味のあることから話を始める
いきなり習い事の話をするのではなく、子どもの好きなことや興味のあることから会話を始めることで、子どもの心を開くことができます。
「今日、保育園で何して遊んだの?」 「この前見たアニメ、面白かったよね」 「お友達の○○ちゃんは、どんな遊びが好きなの?」
このような他愛もない会話の中で、自然に習い事の話題に触れてみてください。
3-2:年齢別のコミュニケーション方法
2歳〜3歳:具体的な場面を想像しながら
この年齢の子どもは、抽象的な質問よりも、具体的な場面を想像できる質問の方が答えやすくなります。
×「習い事、どうして嫌なの?」 ○「習い事の先生は優しい?」 ○「お友達と一緒に歌うの、楽しい?」 ○「教室に入る時、どんな気持ちになる?」
また、この時期の子どもは感情を表現する語彙が限られているため、「嬉しい」「悲しい」「怖い」「恥ずかしい」など、基本的な感情語を使って確認してあげることも大切です。
3歳〜4歳:選択肢を提示しながら
この年齢になると、ある程度複雑な感情も理解できるようになりますが、まだ自分の気持ちを整理することは難しいものです。選択肢を提示することで、子どもが自分の気持ちを認識しやすくなります。
「習い事の時、○○ちゃんはどんな気持ちかな? A. 楽しい気持ち B. ちょっと疲れた気持ち C. 恥ずかしい気持ち D. よくわからない気持ち」
このように選択肢を提示することで、子どもは自分の感情をより具体的に認識できるようになります。
4歳〜5歳:物語形式で共感を引き出す
この年齢になると、他人の立場に立って考えることもできるようになります。物語形式で似たような状況を提示することで、子どもが自分の気持ちを客体視しやすくなります。
「昔々、○○くんと同じくらいの年の子がいてね、その子も習い事に通っていたんだけど、ある日急に『行きたくない』って言い出したの。○○くんは、どうしてその子がそう言ったと思う?」
このような問いかけをすることで、子どもは自分の状況を客観視しながら、自分の気持ちについて考えることができます。
3-3:よくある理由とその見極め方
人間関係に関する悩み
幼児期でも、お友達との関係で悩むことは珍しくありません。特に、以下のような状況は要注意です:
- 特定の子どもの名前を出して嫌がる
- 「みんなが意地悪する」と言う
- 以前は仲良しだった子の話をしなくなった
- 教室で一人でいることが多くなった
私が出会ったケースでは、4歳のゆうちゃん(仮名)が英語教室を急に嫌がるようになりました。お母さんが優しく話を聞いてみると、「○○くんが、ゆうちゃんの英語変だって言う」ということがわかりました。
このような場合は、先生に相談して、クラスの人間関係を注意深く見守ってもらうことが必要です。
先生に対する感情
子どもにとって、習い事の先生は家族以外の重要な大人です。その先生との関係がうまくいかないと、習い事そのものを嫌がるようになることがあります。
- 「先生、怖い」という発言
- 先生の名前を出すと表情が曇る
- 以前は先生の話をよくしていたのに、最近は全く話さない
- 先生に褒められた話をしなくなった
ただし、この場合は注意深く状況を確認する必要があります。子どもの感じ方と実際の状況に違いがある場合もあるからです。
活動内容への興味の変化
子どもの興味や関心は、発達とともに変化していきます。以前は楽しんでいた活動でも、成長とともに物足りなくなったり、別のことに興味が移ったりすることは自然なことです。
- 「簡単すぎる」「つまらない」という発言
- 他の活動への興味が高まっている
- 習い事以外の時間に、より高度な同種の活動を求める
- 年下の子たちと一緒の活動を嫌がる
体力的・精神的な疲れ
現代の子どもたちは、大人が思う以上に忙しいスケジュールで生活していることがあります。
- 平日の保育園・幼稚園での疲れ
- 複数の習い事を掛け持ちしている疲れ
- 家族の忙しさに合わせた生活リズムの乱れ
- 季節の変わり目などによる体調の変化
このような場合は、習い事そのものの問題ではなく、生活全体のバランスを見直す必要があります。
3-4:子どもの「言葉にできない気持ち」を理解する
絵を描いてもらう
言葉で表現することが難しい子どもの場合、絵を描いてもらうことで気持ちを理解できることがあります。
「習い事の時の気持ちを、絵に描いてみる?」 「習い事の先生やお友達を描いてみる?」
描かれた絵の色使い、人物の表情、大きさなどから、子どもの感情を読み取ることができます。
遊びの中での表現
子どもは遊びの中で、現実では言葉にできない気持ちを表現することがあります。
人形遊びやごっこ遊びの中で、「今日は習い事行かない」と人形に言わせたり、「先生役」と「生徒役」を演じながら、実際の教室での体験を再現したりすることがあります。
このような遊びを観察することで、子どもの本当の気持ちや体験を理解する手がかりを得ることができます。
第4章:具体的な対処法〜状況別のアプローチ方法〜
4-1:一時的な気分の落ち込みの場合
「今日だけ特別」から始める
子どもの拒否が一時的なものである可能性が高い場合、まずは「今日だけ特別にお休みしようか」という提案から始めてみてください。
この時大切なのは、「特別」であることを明確にすることです。「毎回休んでもいい」というメッセージではなく、「今日は特別な日」という位置づけにすることで、子どもに安心感を与えながらも、習い事への継続的な参加意識を保つことができます。
私の息子の場合、ある日の朝に「リトミック行きたくない」と言った時、その前日に保育園で友達とケンカをして落ち込んでいることがわかりました。そこで、「今日は心が疲れているから、お家でママと一緒にゆっくりしようか」と提案し、息子の好きな絵本を読んだり、一緒にお菓子作りをしたりして過ごしました。
翌週には、息子は自分から「今日はリトミック行く」と言い、いつも通り楽しそうに参加していました。
代替活動で気分転換
習い事をお休みした日は、ただ家でだらだらと過ごすのではなく、子どもの気持ちが前向きになるような活動を一緒にすることをお勧めします。
- 公園でのびのびと体を動かす
- 図書館で新しい絵本を読む
- 一緒に料理やお菓子作りをする
- 近所を散歩しながら季節の変化を観察する
これらの活動を通して、子どもの心の安定を図り、次回の習い事への意欲を回復させることができます。
4-2:人間関係のトラブルがある場合
事実確認と先生との連携
子どもが人間関係の問題を訴えている場合、まずは事実を冷静に確認することが重要です。幼児期の子どもの記憶や表現は、感情によって色づけされることが多いため、実際の状況と子どもの認識に差がある場合もあります。
ただし、だからといって子どもの訴えを軽視してはいけません。子どもにとっては、その認識が現実なのです。
先生に状況を確認する際は、以下のような聞き方をしてみてください:
「最近、うちの子が習い事を嫌がるようになって、『○○ちゃんが意地悪する』と言っているのですが、クラスでの様子はいかがでしょうか?」
このように、子どもの訴えをそのまま伝えながらも、先生の客観的な観察を求めることで、状況をより正確に把握することができます。
子どもの社会性を育てる機会として
人間関係のトラブルは、確かに親としては心配ですが、同時に子どもの社会性を育てる貴重な機会でもあります。
友達との小さなトラブルを通して、子どもは以下のことを学んでいきます:
- 自分の気持ちを相手に伝える方法
- 相手の気持ちを理解する力
- 問題を解決するための方法
- 我慢することと主張することのバランス
私が保育現場で出会った事例をご紹介します。5歳のたろうくん(仮名)は、サッカー教室で同じチームの子に「下手くそ」と言われて傷つき、教室に行きたがらなくなりました。
お母さんと先生が連携して、以下のような段階的なサポートを行いました:
- 気持ちの整理:たろうくんの悲しい気持ちを十分に聞く
- 状況の理解:相手の子も実は負けず嫌いで、つい強い言葉を使ってしまうことを説明
- 対応策の検討:「嫌な気持ちになった時はどうしたらいいか」を一緒に考える
- 実践とフォロー:実際の場面で練習し、うまくいった時は褒める
この結果、たろうくんは自分の気持ちを相手に伝えることができるようになり、相手の子との関係も改善されました。
4-3:先生との関係に問題がある場合
子どもの気持ちを最優先に
先生に対する子どもの感情は、大人の想像以上に複雑です。単純に「先生が怖い」という場合もあれば、「先生に認めてもらえない」「先生が他の子ばかり褒める」といった、より繊細な感情の問題である場合もあります。
まずは、子どもの感じている気持ちを否定せずに受け止めることから始めてください。
「先生のことを怖いと感じているんだね」 「先生に褒めてもらえなくて、悲しかったんだね」
このように、子どもの感情をそのまま受け止めることで、子どもは安心して自分の気持ちを表現できるようになります。
先生との直接的なコミュニケーション
子どもが先生との関係で悩んでいる場合、保護者が先生と直接話し合うことが必要になることもあります。ただし、この時は以下の点に注意してください:
- 感情的にならない:子どもの訴えに心を痛めるのは当然ですが、まずは冷静に状況を確認する
- 事実を整理して伝える:「うちの子がこう言っている」という事実を、批判的にならずに伝える
- 協力的な姿勢を示す:問題を解決するために一緒に取り組みたいという姿勢を伝える
- 子どもの成長を共通目標にする:先生も子どものことを思って指導していることを理解する
習い事そのものの継続について
先生との関係改善が難しい場合、習い事そのものの継続について検討する必要があります。しかし、すぐに辞めるという結論を出すのではなく、以下のような段階的なアプローチを考えてみてください:
- クラス変更の可能性:同じ教室で別の先生のクラスがある場合
- 教室変更の検討:他の教室や教育方針の異なる教室への変更
- 一時的な休会:しばらく休んでから、子どもの気持ちが整理されてから再開
- 完全な退会:他の全ての方法を試した上での最終的な選択
私が相談を受けたケースでは、4歳の女の子が英語教室の先生の厳しい指導に萎縮してしまい、英語自体を嫌いになりそうになったことがありました。お母さんが先生と話し合った結果、より子どもの個性を理解してくれる別の教室に変更し、その後は英語を楽しく学び続けることができました。
4-4:活動内容に対する興味の変化への対応
子どもの成長を喜ぶ視点
子どもが「簡単すぎる」「つまらない」と言い出した場合、それは実は成長の証です。以前は楽しんでいた活動が物足りなくなったということは、子どもの能力や理解力が向上したということでもあります。
まずは、子どもの成長を喜び、認めてあげることから始めてください。
「○○ちゃん、すごく上手になったから、今の活動が簡単に感じるようになったのね」 「たくさんできるようになって、もっと難しいことにチャレンジしたくなったんだね」
段階的なチャレンジの提案
興味の変化に対応するために、以下のような段階的なアプローチを考えてみてください:
- 現在の活動内で上級者としての役割:年下の子のお手伝いをしたり、お手本になったりする
- 同じ教室での上級クラス移動:年齢や能力に応じた上のクラスがある場合
- 活動内容の追加:現在の習い事に加えて、より発展的な内容を学べる場を探す
- 全く新しい分野への挑戦:子どもの新しい興味に合わせた習い事への変更
家庭でのフォローアップ
習い事だけでなく、家庭でも子どもの新しい興味や能力をサポートすることが大切です。
例えば、リトミックが簡単すぎると感じている子どもには、家庭でより複雑なリズム遊びを取り入れたり、楽器に触れる機会を作ったりすることで、音楽への興味を深めることができます。
4-5:体力的・精神的疲れへの対応
生活リズムの見直し
子どもが疲れを理由に習い事を嫌がる場合、まずは家庭での生活リズムを見直してみてください。
現代の子どもたちは、思っている以上に忙しい生活を送っています。保育園や幼稚園での活動、複数の習い事、家族との時間、友達との遊び…これらすべてをこなすことは、大人でも大変なことです。
生活リズムを見直す際のポイント:
- 睡眠時間の確保:年齢に応じた適切な睡眠時間を確保する
- 食事のタイミング:習い事前後の食事のタイミングを調整する
- 自由時間の確保:何も予定のない「ぼーっとする時間」も大切
- 習い事の数と頻度:本当に全ての習い事が必要かを検討する
季節による体調変化への配慮
特に季節の変わり目は、子どもの体調や精神状態が不安定になりやすい時期です。この時期に習い事を嫌がる場合は、体調面での配慮が必要かもしれません。
- 気温の変化に対応した服装の調整
- 水分補給や栄養面でのサポート
- 十分な休息時間の確保
- 無理をしない柔軟なスケジュール調整
「休む勇気」も大切に
時には、「休む」という選択も必要です。子どもが「疲れた」と訴えている時に無理をさせることで、習い事そのものへの嫌悪感を植え付けてしまうこともあります。
「今日は体が疲れているから、お家でゆっくりしようか」という提案は、決して甘やかしではありません。子どもの体調や精神状態を最優先に考えた、適切な判断です。
第5章:モチベーション回復のための工夫〜楽しさを取り戻すアイデア〜
5-1:習い事を「特別な時間」として演出する
準備の段階から楽しみを作る
子どもにとって、習い事そのものだけでなく、そこに向かう準備の時間も大切な体験です。習い事への気持ちを前向きにするために、準備の段階から楽しみを演出してみてください。
特別な習い事バッグ
子ども専用の習い事バッグを用意し、一緒に必要なものを準備する時間を作ってみてください。この時、子どもが自分で荷物を確認し、準備することで、習い事への参加意識が高まります。
私の息子の場合、リトミック用の小さなリュックサックに、お気に入りのキーホルダーをつけて、「リトミックの日はこのバッグと一緒」という特別感を演出しました。息子は毎回、バッグの準備を楽しみにするようになり、自然と習い事への気持ちも前向きになっていきました。
「今日は何をするのかな?」という期待感
習い事に向かう道中で、「今日はどんな楽しいことがあるかな?」という会話をしてみてください。この時、具体的な活動内容がわからなくても構いません。子どもと一緒に想像を膨らませることで、期待感を高めることができます。
到着前の「心の準備」
教室に着く前に、少し時間をとって「心の準備」をする時間を作ってみてください。深呼吸をしたり、「今日も楽しもうね」と声をかけたりすることで、子どもの気持ちを整えることができます。
5-2:小さな達成感を積み重ねる
「できたこと探し」の習慣
習い事の後は、必ず「今日できたこと」を一緒に振り返る時間を作ってください。この時大切なのは、大きな上達や成果だけでなく、小さな変化や努力を見つけて認めることです。
例えば:
- 「今日は最初から最後まで座っていられたね」
- 「先生の話をよく聞いていたね」
- 「お友達に優しくできたね」
- 「新しい歌を覚えようと頑張っていたね」
これらの小さな「できたこと」を積み重ねることで、子どもは習い事に対して自信と達成感を感じるようになります。
家庭での「発表会」
習い事で学んだことを家庭で「発表」する機会を作ってみてください。これは正式な発表会である必要はなく、家族の前で歌を歌ったり、踊りを踊ったりするだけでも十分です。
私の息子は、リトミックで覚えた歌を帰宅後に祖父母の前で歌うことを楽しみにしていました。家族から「上手だね」「素敵だね」と褒められることで、習い事での学びに価値を感じ、より意欲的に参加するようになりました。
記録に残す
子どもの成長や頑張りを写真や動画で記録に残すことも、モチベーション向上に効果的です。月に一度程度、習い事での様子や家庭での発表を記録し、後から一緒に見返すことで、子どもは自分の成長を実感することができます。
5-3:友達との関係を活かす
習い事仲間との交流
可能であれば、習い事で一緒になる他の子どもたちやその保護者との交流を深めてみてください。習い事以外の場面でも顔を合わせることで、子どもたちの関係がより深まり、習い事そのものへの楽しみも増していきます。
ただし、この時注意したいのは、無理に友達を作ろうとしないことです。子どもには子どもなりのペースがありますし、内向的な性格の子どもにとって、積極的な交流がプレッシャーになることもあります。
私が出会ったケースでは、人見知りの激しい3歳の女の子が、英語教室で同じく内向的な男の子と仲良くなったことがきっかけで、教室での時間を楽しめるようになりました。最初は二人とも教室の隅で静かに過ごしていましたが、徐々に一緒に活動に参加するようになり、最終的には他の子どもたちとも関わりを持てるようになりました。
「一緒に頑張る仲間」という意識
友達関係を習い事への動機づけに活用する際は、競争よりも協力を重視してください。「○○ちゃんと一緒に頑張ろうね」「みんなで楽しくやろうね」という声かけをすることで、習い事を楽しい共同体験として捉えることができます。
5-4:家庭での延長活動
習い事の内容を家庭でも楽しむ
習い事で学んだことを家庭でも楽しめるように工夫することで、学習効果を高めるとともに、習い事への興味を維持することができます。
音楽系の習い事の場合
- 習い事で歌った曲を家庭でも一緒に歌う
- 簡単な楽器(タンバリン、鈴など)を用意して家族でセッション
- 音楽に合わせて自由に踊る時間を作る
運動系の習い事の場合
- 公園で習い事の動きを練習する
- 家庭でできる簡単なストレッチや体操を一緒にする
- スポーツ観戦を通して、習い事への興味を深める
学習系の習い事の場合
- 習い事で覚えた単語や概念を日常会話に取り入れる
- 関連する絵本や図鑑を一緒に読む
- 習い事のテーマに関連した遊びやクラフトを楽しむ
親子で一緒に学ぶ姿勢
子どもの習い事に関心を示し、時には親も一緒に学ぶ姿勢を見せることで、子どものモチベーションを高めることができます。
「ママも○○ちゃんの習い事、面白そうだな。今度教えてくれる?」 「パパも一緒にやってみたいな」
このような言葉をかけることで、子どもは習い事を「自分だけのもの」ではなく、「家族みんなで楽しめるもの」として捉えるようになります。
5-5:ご褒美と達成感のバランス
内発的動機を育てる褒め方
子どものモチベーションを高めるために「ご褒美」を使うことは、一定の効果がありますが、使い方には注意が必要です。物質的なご褒美に頼りすぎると、子どもの内発的な動機(「楽しいからやりたい」「面白いから続けたい」という気持ち)が育たなくなってしまうことがあります。
効果的な褒め方のポイント:
- 過程を褒める:結果だけでなく、努力や取り組み方を褒める
- 具体的に褒める:「上手だね」ではなく「最後まで集中して取り組めたね」
- 感情を共有する:「ママも嬉しいよ」「一緒に楽しめて幸せだよ」
- 自己効力感を高める:「○○ちゃんががんばったからできたんだね」
特別な体験をご褒美に
物質的なご褒美よりも、特別な体験をご褒美にすることをお勧めします。
- 習い事を頑張った後の特別なお出かけ
- 好きな絵本を一緒に選んで買いに行く
- 習い事に関連した展示会やコンサートに一緒に行く
- 子どもの好きな場所でのピクニック
これらの体験は、習い事そのものの楽しさと結びついて、より深い満足感と継続への動機を生み出します。
第6章:習い事を辞める判断基準〜いつ、どのように決断するか〜
6-1:「継続」と「辞める」のバランス
継続することの価値
習い事において継続することには、確かに大きな価値があります。技能の習得、忍耐力の育成、社会性の発達など、継続することでしか得られない学びがあることも事実です。
しかし、継続が目的化してしまい、子どもの心の健康や学習への楽しさを犠牲にしてしまっては本末転倒です。継続の価値と、子どもの現在の状況を冷静に比較検討することが大切です。
私自身、息子のリトミックについて悩んだ時期がありました。「せっかく始めたのだから続けさせたい」「他の習い事でも同じことが起きたらどうしよう」という気持ちと、「息子が嫌がっているのに続けさせるのは正しいのか」という気持ちの間で揺れ動いていました。
その時に保育現場での経験を振り返って気づいたのは、子どもが心から楽しめない活動を無理に続けさせることで、その分野全体への嫌悪感を植え付けてしまうリスクがあるということでした。
「辞める」ことも一つの学び
時には、習い事を辞めるという選択も、子どもにとって重要な学びの機会になります。
- 自分の気持ちを大切にすることの学び
- 新しいことにチャレンジする勇気
- 変化を受け入れる柔軟性
- 家族で話し合って決めることの体験
ただし、この時大切なのは、辞めることが「逃げ」や「失敗」ではなく、「新しい選択」であることを子どもに伝えることです。
6-2:辞めるタイミングの見極め
明確な判断基準を持つ
習い事を辞めるかどうかの判断は、感情的にならず、客観的な基準を持って行うことが大切です。以下のような基準を参考にしてみてください:
即座に辞めることを検討すべき状況
- 子どもが習い事に関連して心身の不調を訴える
- 明らかないじめや不適切な指導がある
- 子どもが習い事の話題で激しく拒否反応を示す
- 習い事のことを考えるだけで泣いたり、パニックを起こしたりする
時間をかけて検討すべき状況
- 一時的な気分の落ち込みや興味の変化
- 友達との小さなトラブル
- 活動内容への飽きや物足りなさ
- 生活リズムの変化による疲れ
様子を見ながら対応すべき状況
- 新しい環境や先生への慣れの問題
- 発達段階に応じた反抗期の表れ
- 他の習い事や学校生活の影響
一定期間の観察
子どもが習い事を嫌がり始めた時、すぐに辞めるかどうかを決めるのではなく、一定期間(1〜2ヶ月程度)様子を観察することをお勧めします。
この期間中に以下のことを記録してみてください:
- 子どもが嫌がる頻度と程度
- 嫌がる理由の変化
- 習い事以外の時間での子どもの様子
- 家庭でのフォローや声かけの効果
- 先生や他の保護者からの情報
これらの記録を基に、より客観的な判断をすることができます。
6-3:段階的な検討プロセス
第1段階:現状の詳細な把握
まずは、子どもの状況を詳細に把握することから始めてください。
- 子どもの気持ちの聞き取り:なぜ嫌がるのか、どの部分が嫌なのか
- 先生からの情報収集:客観的に見た子どもの様子
- 他の保護者からの情報:クラス全体の雰囲気や他の子どもの様子
- 家庭での観察:習い事以外の時間での子どもの変化
第2段階:改善策の実施
現状を把握した上で、可能な改善策を実施してみてください。
- 環境の調整:座る位置、参加する時間、持ち物などの変更
- 家庭でのサポート:予習復習、気持ちの整理、体調管理
- 先生との連携:子どもの特性に合わせた指導の工夫
- 友達関係のサポート:人間関係の改善に向けた取り組み
第3段階:効果の評価
改善策を実施した後、その効果を評価してください。
- 子どもの習い事への態度に変化があったか
- 嫌がる頻度や程度に改善が見られたか
- 家庭での様子に変化があったか
- 長期的な視点で子どもの成長に寄与しているか
第4段階:最終判断
以上のプロセスを経て、最終的な判断を行います。この時、以下の視点を考慮してください:
- 子どもの心の健康が最優先
- 習い事の目的が達成されているか
- 家族全体への影響
- 他の選択肢の可能性
6-4:辞める際の適切な手続きと子どもへの説明
教室への連絡と退会手続き
習い事を辞めることを決めた場合、教室への連絡は速やかに、そして丁寧に行ってください。
電話での連絡例: 「いつもお世話になっております。○○の件でご相談があり、お電話いたしました。この度、家庭の事情により、来月末で退会させていただくことになりました。○○も最初は楽しく通わせていただいていたのですが、最近は習い事への気持ちが変化しており、家族で話し合った結果、一度お休みすることになりました。先生には大変お世話になり、ありがとうございました。」
この時のポイント:
- 先生や教室への感謝の気持ちを伝える
- 退会の理由を簡潔に説明する(詳細な事情は必要に応じて)
- 必要な手続きについて確認する
- 最後のレッスンまでの対応について相談する
子どもへの説明の仕方
子どもに習い事を辞めることを説明する際は、以下の点に注意してください:
- 責任を子どもに負わせない 「○○ちゃんが嫌がったから辞めることになった」ではなく、「家族で話し合って、今は他のことに時間を使うことにした」
- 否定的な表現を避ける 「習い事は向いていなかった」ではなく、「今は他のことに興味が向いているね」
- 今後の可能性を残す 「もう二度とできない」ではなく、「また興味が出てきたら、その時に考えようね」
- 子どもの気持ちを尊重していることを伝える 「○○ちゃんの気持ちを一番大切に考えて決めたよ」
最後のレッスンへの参加
可能であれば、最後のレッスンには参加し、先生やお友達にお別れの挨拶をすることをお勧めします。これにより、子どもにとって習い事が「途中で投げ出したもの」ではなく、「一つの区切りをつけたもの」として記憶に残ります。
ただし、子どもが強く拒否する場合は無理をする必要はありません。その場合は、保護者が代わりに挨拶をし、子どもには別の形でお礼の気持ちを表現する機会を作ってあげてください。
6-5:辞めた後のフォローアップ
子どもの気持ちのケア
習い事を辞めた後、子どもが罪悪感や失敗感を抱かないよう、適切なフォローが必要です。
習い事での経験を肯定的に振り返る 「○○教室で、たくさんのことを学んだね」 「先生やお友達と楽しい時間を過ごせたね」 「新しい歌を覚えたり、体を動かしたり、いろいろな体験ができたよね」
辞めることの意味を前向きに伝える 「今度は○○ちゃんの新しい興味に時間を使えるね」 「いろいろなことを体験してみることも大切だよ」 「○○ちゃんが楽しいと思えることを見つけていこうね」
新しい活動への準備
習い事を辞めた後の時間をどのように使うかも重要です。単に空いた時間を持て余すのではなく、子どもの興味や関心に応じた新しい活動を見つけてあげてください。
- 図書館での読書時間
- 公園での自由な外遊び
- 家庭でのクッキングやクラフト
- 新しい習い事の体験教室への参加
- 家族での特別なお出かけ
習い事への再チャレンジの可能性
時間が経って子どもの成長や環境の変化により、同じ分野の習い事に再度興味を持つこともあります。そのような時は、過去の経験を活かしながら、新しいチャレンジとして取り組むことができます。
私が出会ったケースでは、3歳でピアノを嫌がって辞めた子どもが、5歳になって自分から「ピアノをやってみたい」と言い出し、今度は楽しく続けているという例もありました。
第7章:専門家から見た幼児の習い事との向き合い方
7-1:発達段階に応じた期待値の設定
2〜3歳:「慣れる」ことが最大の目標
この時期の子どもにとって、習い事で最も重要なのは技能の習得ではなく、新しい環境に慣れ、集団活動を楽しむことです。
モンテッソーリ教育の視点から見ると、2〜3歳の子どもは「秩序の敏感期」にあり、決まったルーティンや環境を好む傾向があります。習い事という新しい環境に慣れるだけでも、大きな成長なのです。
この時期に親が期待すべきこと:
- 教室に入ることができる
- 他の子どもや先生の存在を受け入れる
- 短時間でも活動に参加する
- 家庭とは違うルールを理解しようとする
逆に、期待しすぎない方がよいこと:
- 指示通りに完璧に行動すること
- 他の子どもと全く同じように参加すること
- 毎回同じテンションで楽しむこと
- 習い事の内容を家庭で再現すること
3〜4歳:「楽しむ」ことを中心に
この時期になると、子どもは集団活動により積極的に参加できるようになり、友達との関わりも増えてきます。習い事においても、技能の習得よりも**「楽しい」と感じる体験を積み重ねる**ことが重要です。
私が保育現場で観察してきた3〜4歳の子どもたちを見ると、この時期は「できた!」という達成感よりも、「面白かった!」「楽しかった!」という感情の方が、継続への強い動機になることがわかります。
この時期に大切にしたいこと:
- 子ども自身が「楽しい」と感じる体験
- 友達と一緒に活動する喜び
- 自分なりのペースで参加できる環境
- 失敗を恐れずにチャレンジできる雰囲気
注意したいこと:
- 他の子どもとの比較
- 完璧を求めすぎること
- 結果や成果への過度な期待
- 子どものペースを無視した進度
4〜5歳:「自分なりの表現」を大切に
この時期の子どもは、自我がより確立され、自分なりの表現や創造性を発揮したいという欲求が強くなります。習い事においても、決められた型にはめるのではなく、子ども一人ひとりの個性や表現を尊重することが重要です。
私の息子も4歳になった頃、リトミックで決められた動きをするよりも、音楽に合わせて自分なりの踊りを踊ることを好むようになりました。最初は「みんなと同じようにしなさい」と注意していましたが、先生から「個性的な表現も素晴らしいですね」と言われ、息子の創造性を認めることの大切さに気づきました。
この時期に育てたいもの:
- 自分なりの表現力
- 創造性と独創性
- 他者の表現を認める心
- 自分の感情や考えを言葉で表現する力
避けたいこと:
- 画一的な指導や評価
- 他の子どもとの過度な競争
- 子どもの個性を否定する態度
- 大人の価値観の押し付け
5〜6歳:「継続する力」を育てる
就学前のこの時期になると、子どもは少しずつ「継続すること」の意味を理解できるようになります。ただし、これは大人が強制するものではなく、子ども自身が「続けたい」と思える動機を持てるかどうかが重要です。
この時期の子どもは、以下のような特徴を持っています:
- より複雑な活動に取り組める
- 目標を持って取り組むことができる
- 友達との協力や競争を楽しめる
- 自分の成長を実感できる
しかし、同時に以下のような注意も必要です:
- プレッシャーに敏感になる
- 完璧主義的になりやすい
- 他者と比較して自信を失いやすい
- 期待に応えようとして無理をしやすい
7-2:家庭環境が習い事に与える影響
親の態度が子どもに与える影響
子どもの習い事への態度は、親の態度に大きく影響されます。これは、子どもが親の感情を敏感に察知し、それを自分の行動の指針とするためです。
習い事を楽しむ親の姿勢
親が習い事に対して前向きで楽しそうな態度を示すことで、子どもも習い事を楽しいものとして捉えやすくなります。
効果的な親の態度:
- 「今日は何を教えてもらったの?」という興味深そうな質問
- 子どもが習い事の話をした時の嬉しそうな反応
- 習い事での小さな成長も喜ぶ姿勢
- 習い事の先生やお友達の話を聞く時間を作る
避けたい親の態度:
- 「お金を払っているんだから頑張りなさい」というプレッシャー
- 他の子どもとの比較
- 成果が見えないことへのイライラ
- 習い事の時間を親の都合で調整しすぎること
兄弟姉妹の影響
兄弟姉妹がいる家庭では、上の子の習い事への態度が下の子に影響することがよくあります。
私が相談を受けたケースでは、お姉ちゃんがピアノを嫌がって辞めたことで、弟も「ピアノは嫌なもの」という印象を持ってしまい、体験教室に行くことすら拒否するようになったことがありました。
逆に、お兄ちゃんが楽しそうに空手に通っている姿を見て、妹も「やってみたい」と言い出し、実際に楽しく続けているケースもあります。
兄弟姉妹への配慮:
- それぞれの子どもの個性を尊重する
- 比較するような発言は避ける
- 一人ひとりに合った習い事を選ぶ
- 兄弟姉妹の習い事への态度が影響し合うことを理解する
家庭の生活リズムとの調和
習い事が家庭の生活リズムと調和していることも、子どもの継続意欲に大きく影響します。
調和の取れた生活リズム:
- 習い事の前後に十分な余裕がある
- 食事や睡眠の時間が確保されている
- 家族との時間も大切にされている
- 子どもが疲れすぎない程度のスケジュール
避けたい生活パターン:
- 習い事の掛け持ちによる過密スケジュール
- 移動時間が長すぎて疲れてしまう
- 食事の時間が不規則になる
- 家族とのゆっくりした時間がない
7-3:習い事の選び方と見直し方
子どもの気質に合った習い事選び
子どもには一人ひとり異なる気質があり、それに合った習い事を選ぶことが成功の鍵となります。
内向的な子どもの場合
内向的な子どもは、大人数での活動や競争的な環境よりも、少人数で自分のペースで取り組める活動を好む傾向があります。
適している習い事:
- 個人レッスンやペアレッスンの楽器
- 少人数制の絵画教室
- 読書や創作活動
- 一対一での学習指導
配慮すべき点:
- いきなり大人数のクラスに入れない
- 子どものペースを尊重する
- 発表の機会を強制しない
- 静かな環境で集中できる時間を確保する
外向的な子どもの場合
外向的な子どもは、他の子どもたちとの関わりや、エネルギーを発散できる活動を好む傾向があります。
適している習い事:
- チームスポーツ
- 合唱や演劇
- ダンスやリトミック
- 集団での学習活動
配慮すべき点:
- エネルギーを適切に発散できる機会を作る
- 他の子どもとの関わりを大切にする
- リーダーシップを発揮する機会を与える
- 競争を楽しめる環境を整える
慎重な子どもの場合
新しいことに対して慎重になりがちな子どもは、安心できる環境でゆっくりと慣れていくことが重要です。
適している習い事:
- 体験期間の長い習い事
- 先生が温かく見守ってくれる教室
- 段階的にレベルアップできる活動
- 失敗を恐れずに取り組める環境
配慮すべき点:
- 慣れるまで時間をかける
- プレッシャーを与えない
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 安心できる環境を整える
活発な子どもの場合
体を動かすことが好きで、じっとしていることが苦手な子どもには、その特性を活かせる習い事を選ぶことが大切です。
適している習い事:
- 体操や水泳などの個人スポーツ
- サッカーや野球などのチームスポーツ
- ダンスや武道
- 屋外での活動が多い習い事
配慮すべき点:
- 体を動かす時間を十分に確保する
- 集中時間は短めに設定する
- 動きながら学べる工夫をする
- エネルギーを適切に発散できる環境を作る
7-4:習い事の効果を長期的視点で考える
即効性を求めすぎない
現代の保護者の中には、習い事の効果を短期間で求めがちな傾向があります。しかし、幼児期の習い事の真の価値は、長期的な視点で見た時に現れることが多いのです。
私が保育現場で出会った子どもたちを長期的に観察していると、幼児期の習い事の効果は以下のような形で現れることがわかりました:
小学校入学後に現れる効果
- 新しい環境に適応する力
- 集団活動でのルールやマナーの理解
- 継続することの大切さの体感
- 多様な表現方法の習得
中学・高校時代に現れる効果
- 自分の興味や得意分野の発見
- 困難に直面した時の継続力
- 他者との協力やコミュニケーション能力
- 創造性や表現力の基盤
大人になってから現れる効果
- 新しいことに挑戦する勇気
- 多様な価値観への理解
- 人間関係を築く力
- 人生を豊かにする趣味や特技
「今」だけでなく「将来」を見据えた判断
習い事を続けるか辞めるかを判断する際も、目先の状況だけでなく、長期的な視点を持つことが重要です。
現在の状況が良くない場合でも、以下のような要素があれば継続を検討する価値があります:
- 子どもが完全に嫌がっているわけではない
- 一時的な問題である可能性が高い
- 改善策を試す余地がある
- その分野への潜在的な興味がある
逆に、以下のような状況では、長期的な視点からも辞めることを検討した方がよいかもしれません:
- 子どもの自己肯定感が著しく下がっている
- その分野全体への嫌悪感が強い
- 家族関係に悪影響が出ている
- 子どもの心身の健康に支障がある
7-5:保護者としての心構えと成長
完璧な親でなくてもよい
習い事を通して、保護者自身も多くのことを学び、成長していきます。子どもが習い事を嫌がった時に、どう対応したらよいかわからなくなることは、決して親として失格ということではありません。
私自身も、息子の習い事について悩んだ時期があり、「もっと上手に導いてあげられたら」「他のお母さんはどうしているのだろう」と自分を責めることがありました。
しかし、子育てに完璧な答えはありません。子どもと一緒に試行錯誤しながら、最善の道を見つけていくことこそが、親としての大切な役割なのです。
子どもから学ぶ姿勢
習い事の問題を通して、保護者は子どもの新たな一面を発見することがあります。普段は明るい子どもが意外に繊細だったり、内気だと思っていた子どもが実は芯の強さを持っていたり…
このような発見は、子どもをより深く理解し、より適切なサポートをするための貴重な機会となります。
他の保護者との比較を避ける
習い事の場では、他の子どもや保護者と接する機会も多くなります。その中で、つい我が子と他の子を比較してしまったり、他の保護者の対応と自分の対応を比べてしまったりすることがあります。
しかし、子どもも家庭もそれぞれ異なるのですから、比較することに意味はありません。大切なのは、自分の子どもにとって何が最良かを考えることです。
専門家や他の保護者との連携
一人で悩みを抱え込まず、習い事の先生や他の保護者、場合によっては保育士や教育の専門家に相談することも大切です。
私が保育現場で感じるのは、多くの保護者が同じような悩みを抱えているということです。情報を共有し、互いに支え合うことで、より良い解決策を見つけることができます。
第8章:年齢別・具体的な声かけと対応例
8-1:2〜3歳の子どもへの対応
この時期の特徴を理解する
2〜3歳の子どもは、言語能力がまだ発達途中であり、自分の感情を言葉で表現することが難しい時期です。また、感情の起伏も激しく、「さっきまで楽しそうだったのに急に泣き出す」ということもよくあります。
この時期の「行きたくない」は、必ずしも習い事そのものを嫌がっているわけではなく、以下のような理由が考えられます:
- その日の体調や気分
- 前日の出来事による影響
- 環境の変化への不安
- 単純に「今はやりたくない」という気持ち
具体的な声かけ例
×「なんで行きたくないの?はっきり言いなさい」 ○「そっか、今日は行きたくない気分なのね」
×「昨日は楽しかったじゃない」 ○「○○ちゃんの気持ち、ママもわかるよ」
×「みんな頑張って行ってるよ」 ○「今日はどうしようか、○○ちゃんと一緒に考えよう」
対応の実例
2歳10ヶ月のみーちゃん(仮名)のケース:
リトミック教室に通い始めて2ヶ月、ある日突然「行かない」と言って玄関で座り込んでしまいました。
お母さんの対応:
- まずは共感:「そうなんだね、今日は行きたくないのね」
- 選択肢の提示:「今日はお家にいる?それとも公園に行く?」
- 習い事について:「リトミックはまた今度にしようか」
- 代替活動:「お家で音楽聞いて踊ろうか」
この日はリトミックをお休みし、家でCDを聞きながら自由に踊って過ごしました。翌週には、みーちゃんから「今日はリトミック行く」と言い出しました。
この時期に大切なポイント
- 理由を詮索しすぎない
- 子どもの気持ちをそのまま受け止める
- 代替案を用意しておく
- 長期的な視点を持つ(一回休んでも大丈夫)
8-2:3〜4歳の子どもへの対応
この時期の特徴
3〜4歳になると、語彙が増え、自分の気持ちをある程度言葉で表現できるようになります。しかし、感情と言葉がまだうまく結びつかないことも多く、「なんとなく嫌」「わからない」という表現が多くなります。
また、この時期は自我が強くなり、「自分で決めたい」という気持ちも強くなります。習い事についても、「やりたい」「やりたくない」の意思表示がはっきりしてきます。
具体的な声かけ例
×「理由がわからないなら行きましょう」 ○「なんだか嫌な気持ちなのね。どんな感じかな?」
×「前は楽しいって言ってたでしょ」 ○「前は楽しかったよね。今はちょっと違う気持ちなのかな?」
×「行かないと上手にならないよ」 ○「○○ちゃんはどうしたいかな?」
対応の実例
3歳8ヶ月のけんくん(仮名)のケース:
英語教室に通い出して半年、最近「英語やだ」「行きたくない」と言うようになりました。
お母さんとの会話: お母さん:「けんくん、英語教室のこと、どう思ってる?」 けん:「やだ」 お母さん:「そうなんだ。どこが嫌かな?」 けん:「わからない」 お母さん:「先生は優しい?」 けん:「うん」 お母さん:「お友達は?」 けん:「みんないい子」 お母さん:「英語の歌は?」 けん:「…嫌い」
このやり取りから、けんくんが英語の歌を覚えることにプレッシャーを感じていることがわかりました。お母さんは先生に相談し、けんくんには「歌えなくても聞いているだけでもいい」ということを伝えてもらいました。
この時期に大切なポイント
- 具体的な要素に分けて聞いてみる
- 子どもの自主性を尊重する
- プレッシャーを取り除く工夫をする
- 先生との連携を大切にする
8-3:4〜5歳の子どもへの対応
この時期の特徴
4〜5歳になると、複雑な感情を抱くようになり、他の子どもとの比較や、周りの期待を意識するようになります。「できないと恥ずかしい」「みんなより下手だから嫌」といった感情も芽生えてきます。
また、この時期は友達関係も重要になってくるため、習い事での人間関係が参加意欲に大きく影響します。
具体的な声かけ例
×「他の子だってできないことはあるよ」 ○「○○ちゃんなりに頑張ってるのがわかるよ」
×「恥ずかしがらないで」 ○「恥ずかしい気持ちもあるよね。ママも子どもの頃そうだったよ」
×「比べちゃダメ」 ○「○○ちゃんには○○ちゃんの良いところがあるよね」
対応の実例
4歳6ヶ月のさくらちゃん(仮名)のケース:
バレエ教室で、最近他の子と比べて「私、下手だから行きたくない」と言うようになりました。
お母さんとの話し合い:
お母さん:「さくらちゃん、バレエ楽しくない?」 さくら:「みんなの方が上手だから嫌」 お母さん:「そっか、そんな風に感じているんだね」 さくら:「私だけできない」 お母さん:「さくらちゃんが最初バレエを始めた時のこと覚えてる?」 さくら:「…覚えてない」 お母さん:「その時より今、すごく上手になってるよ。背中がまっすぐになったし、つま先もきれいに伸びるようになったよね」 さくら:「本当?」 お母さん:「本当よ。みんなそれぞれ違うペースで上手になっていくんだよ」
この後、お母さんは先生にも相談し、さくらちゃんの成長している部分を具体的に伝えてもらうようにお願いしました。
この時期に大切なポイント
- 他者比較ではなく、自己の成長に焦点を当てる
- 具体的な成長を言葉で伝える
- 感情を否定せず、共感する
- 先生と連携して自信を育てる
8-4:5〜6歳の子どもへの対応
この時期の特徴
就学前のこの時期は、子どもなりに「責任感」や「継続することの大切さ」を理解し始めます。しかし、同時にプレッシャーも感じやすくなり、「やめたいけど、やめちゃいけない」という葛藤を抱くこともあります。
また、小学校入学への不安や期待も高まる時期で、習い事への向き合い方にも変化が見られます。
具体的な声かけ例
×「もうお兄さん/お姉さんなんだから頑張りなさい」 ○「どんな気持ちか聞かせてくれる?」
×「続けることが大切なのよ」 ○「続けたい気持ちと、やめたい気持ち、どっちもあるのかな?」
×「小学生になるんだから」 ○「○○ちゃんはどうしたいと思ってる?」
対応の実例
5歳4ヶ月のゆうすけくん(仮名)のケース:
サッカー教室に2年間通っていますが、最近「やめたい」と言うようになりました。理由を聞くと「練習がきつい」「試合で負けるのが嫌」とのことでした。
お父さんとの話し合い:
お父さん:「サッカー、やめたいんだね」 ゆうすけ:「うん、でも…」 お父さん:「でも?」 ゆうすけ:「やめちゃダメかな」 お父さん:「どうしてダメだと思うの?」 ゆうすけ:「パパとママが頑張れって言うから」 お父さん:「そっか。でも、ゆうすけくんが嫌な気持ちでやることが一番良くないよ」 ゆうすけ:「じゃあやめてもいい?」 お父さん:「うん。でも、もしやめるなら、コーチやお友達にきちんとお別れを言おうね」 ゆうすけ:「わかった」
この後、ゆうすけくんは最後の練習に参加し、コーチや友達にお別れの挨拶をしました。半年後、ゆうすけくんは野球に興味を持ち、今度は自分から「やってみたい」と言って野球教室に通い始めました。
この時期に大切なポイント
- 子どもの自主性を最大限尊重する
- 責任感と柔軟性のバランスを教える
- きちんとした終わり方を大切にする
- 新しい可能性への道を残しておく
8-5:個別のケーススタディ
ケース1:人見知りが激しい子どもの場合
3歳のひなちゃん(仮名)は、人見知りが激しく、音楽教室に通い始めたものの、毎回教室の隅で固まってしまい、活動に参加できずにいました。
初期の対応(効果が出なかった方法)
- 「みんなと一緒にやろうね」と促す
- 「恥ずかしがらないで」と励ます
- 無理やり輪の中に入れようとする
効果的だった対応
- 環境の調整:教室の後ろの方で、ひなちゃんが安心できる位置を確保
- 段階的な参加:まずは見ているだけでOK、徐々に手拍子から参加
- 先生との連携:ひなちゃんのペースを理解してもらい、無理な参加を求めない
- 家庭でのフォロー:習い事の歌を家で一緒に歌って慣れ親しませる
- 肯定的な声かけ:「今日もちゃんと見ていられたね」「少し歌えたね」
結果:3ヶ月かけて徐々に参加できるようになり、半年後には積極的に活動に参加するようになりました。
ケース2:完璧主義の傾向がある子どもの場合
4歳のたかしくん(仮名)は、絵画教室で「上手に描けない」ことを理由に参加を嫌がるようになりました。他の子の作品と比べて、自分の絵が劣っていると感じていました。
効果的だった対応
- プロセス重視の声かけ:「上手に描けたね」ではなく「集中して描いていたね」
- 個性の尊重:「たかしくんらしい絵だね」「この色の使い方が面白いね」
- 失敗への理解:「うまくいかない時もあるよね。それも大切な経験だよ」
- 先生との連携:完璧を求めない指導をお願いする
- 家庭での実践:「失敗しても大丈夫」な環境での創作活動
結果:徐々に失敗を恐れずに取り組めるようになり、創造性を発揮できるようになりました。
ケース3:活発すぎて集中できない子どもの場合
5歳のだいきくん(仮名)は、書道教室で静かに座っていることができず、他の子の邪魔をしてしまうことがありました。
効果的だった対応
- 事前の運動:教室の前に公園で十分体を動かす
- 集中時間の調整:短時間集中→休憩→再度集中のサイクル
- 役割の付与:道具の準備や片付けの手伝いをしてもらう
- 身体を使った学習:筆で空中に文字を描く練習から始める
- 達成感の創出:小さな目標を設定し、達成したら褒める
結果:集中できる時間が徐々に長くなり、書道の楽しさを発見できるようになりました。
終章:習い事を通して育む、本当に大切なもの
最後に伝えたい、保護者の皆さんへのメッセージ
この記事を通して、子どもが習い事を嫌がる時の対処法について詳しくお伝えしてきました。しかし、最後にお伝えしたいのは、習い事の成功や失敗よりも、もっと大切なことがあるということです。
私が10年間の保育現場での経験と、自分自身の子育てを通して学んだのは、子どもにとって最も重要なのは、「自分は愛されている」「自分の気持ちは大切にされている」という実感だということです。
息子がリトミックを嫌がった時、私は最初「せっかく始めたのに」「お金がもったいない」「他の子は続けているのに」という思いばかりが頭を巡りました。でも、息子の小さな手を握り、不安そうな表情を見つめている時に気づいたのです。この子にとって一番大切なのは、リトミックが上達することでも、継続することでもなく、お母さんが自分の気持ちをわかってくれるということなのだと。
習い事を通して本当に育てたいもの
習い事の本当の価値は、特定の技能を身につけることではありません。もちろん、ピアノが弾けるようになったり、英語が話せるようになったりすることも素晴らしいことです。しかし、それ以上に大切なのは、以下のような「生きる力の基盤」を育てることです。
自分の気持ちを大切にする力
「嫌だ」「困った」「助けて」と言える子どもは、将来困難に直面した時も、適切にSOSを出すことができます。習い事を嫌がった時に、その気持ちを受け止めてもらった経験は、自分の感情を大切にし、表現することの基盤となります。
他者との関係を築く力
習い事の場での様々な体験—先生との関係、友達との関わり、時にはトラブルの解決—これらすべてが、将来の人間関係を築く力の土台となります。
新しいことにチャレンジする勇気
習い事を通して「知らないことを学ぶ楽しさ」「できなかったことができるようになる喜び」を体験した子どもは、将来も新しいことに積極的にチャレンジする意欲を持ち続けます。
困難を乗り越える力
習い事では、うまくいかないこと、思うようにならないことも多々あります。そんな時に、家族や先生に支えられながら乗り越えた経験は、将来の困難に立ち向かう力となります。
「完璧な親」を目指さなくてもいい
この記事を読んでくださった保護者の皆さんの中には、「もっと上手に対応できたかもしれない」「これまでの自分の対応は間違っていたのかもしれない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、どうか自分を責めないでください。子育てに完璧な答えはありません。大切なのは、子どもと一緒に試行錯誤しながら、最善を尽くそうとする気持ちです。
私自身も、息子への対応で後悔することは数え切れないほどあります。「あの時、もっと息子の気持ちを聞いてあげればよかった」「なぜあんなにイライラしてしまったのだろう」…そんな思いを抱えながらも、毎日息子と向き合い続けています。
間違いを恐れずに、子どもと一緒に成長していく—それこそが、親としての一番大切な姿勢なのではないでしょうか。
子どもの「今」を大切に
最後に、保護者の皆さんにお伝えしたいのは、子どもの「今」を大切にしてほしいということです。
「将来のため」「小学校に入る前に」「他の子に遅れないように」—そんな理由で始めた習い事も、子どもが楽しめなければ意味がありません。
3歳の子どもにとっては「今日」が世界のすべてです。5歳の子どもにとっては「今週」が永遠のように感じられます。その「今」を、不安や苦痛で満たしてしまうよりも、安心と愛情で包んであげてください。
習い事を続けるか辞めるかという判断も、「将来どうなるか」という心配よりも、「今、この子は幸せか」「今、この子の心は安定しているか」という視点を大切にしてください。
信頼関係が何よりの財産
子どもが「習い事に行きたくない」と言った時、それは実は親子の信頼関係を深める絶好の機会でもあります。
「お母さん(お父さん)は、僕の気持ちをわかってくれる」 「家族は、僕が困った時に味方になってくれる」 「僕の気持ちは大切にされている」
そんな実感を持った子どもは、将来どんな困難に直面しても、家族を信頼し、相談することができます。この信頼関係こそが、どんな習い事よりも価値のある、人生の宝物なのです。
おわりに
子育ては、本当に悩みが尽きないものです。「これで正解だったのかな」「もっと良い方法があったのかな」と、いつも自問自答の連続です。
でも、こうして子どものことを真剣に考え、悩み、最善を尽くそうとしている保護者の皆さんの愛情は、必ず子どもに届いています。そして、その愛情こそが、子どもの人生を支える最も大きな力となるのです。
習い事のことで悩んだ時は、ぜひこの記事を思い出してください。そして、一人で抱え込まず、周りの人に相談してください。保育士や先生、他の保護者、時には専門家の力も借りながら、子どもにとって最良の道を見つけていきましょう。
子どもの笑顔が、保護者の皆さんの笑顔が、今日も明日も輝き続けることを、心から願っています。
〜子どもの心に寄り添い、親子で歩む成長の道のり。習い事は、その道のりを豊かにする手段の一つに過ぎません。何より大切なのは、いつも変わらない家族の愛情です〜