「1歳半健診で指差しができないと指摘されて不安になった」「周りの子は指を差して『あれ、これ』と言うのに、うちの子は全然しない」「このまま言葉の発達が遅れてしまうのでは?」
このような悩みを抱えている保護者の方は決して少なくありません。指差しは言葉の発達の重要な前段階として位置づけられており、1歳半健診でも必ずチェックされる項目です。しかし、発達には大きな個人差があり、指差しをしない理由も様々です。
この記事では、保育士・児童発達支援士として数百名の子どもたちと関わってきた専門家の視点から、1歳半で指差しをしない子どもの発達の特徴と、家庭でできる効果的なサポート方法を詳しく解説します。
この記事を読むことで得られるもの
- 指差しの発達過程と個人差について正しく理解できる
- 指差しをしない理由とその背景要因を把握できる
- 家庭で実践できる具体的な支援方法がわかる
- 専門機関への相談タイミングを判断できる
- 子どもの発達に対する不安が軽減される
指差しの発達過程:なぜ1歳半が重要なのか
指差しの発達段階
指差しの発達は、以下の4段階を経て進んでいきます。
第1段階:接触指差し(9~10か月頃) 物に直接触れながら指を差す段階。まだコミュニケーション意図は薄く、探索行動の一環として現れます。
第2段階:要求の指差し(10~12か月頃) 「取って」「あれが欲しい」という要求を込めて指を差す段階。大人の顔を見ながら指差しをするようになります。
第3段階:叙述の指差し(12~15か月頃) 「見て」「あれがある」という発見を伝えるための指差し。共感を求める気持ちが芽生え始めます。
第4段階:応答の指差し(15~18か月頃) 「〇〇はどれ?」という質問に対して適切な物を指差しできる段階。理解言語の発達と密接に関連しています。
1歳半健診で重視される理由
厚生労働省の「1歳6か月児健康診査マニュアル」では、指差しを言語発達の重要な指標として位置づけています。これは、指差しが以下の能力の統合によって成り立つためです。
- 注意の共有能力:他者と同じものに注意を向ける力
- 意図理解:相手が何を求めているかを理解する力
- 象徴機能:指という身体部位で物や概念を表現する力
- 社会的認知:他者とのやり取りを楽しむ気持ち
指差しをしない理由:多角的な要因分析
【専門家の視点】発達の個人差による要因
運動発達重視型の子ども 歩行や運動機能の獲得に集中しており、コミュニケーション機能の発達がゆっくりな場合があります。この場合、2歳前後で急激にコミュニケーション能力が向上することが多く見られます。
慎重派・観察型の子ども 周囲をじっくり観察し、十分に理解してから行動に移すタイプ。指差しも突然始まることがあり、一度始まると他の子より豊富なバリエーションを見せることがあります。
聴覚優位の子ども 視覚的なコミュニケーションより音や言葉への反応が敏感な場合、指差しの出現が遅れることがあります。しかし、音楽や歌への反応は優れていることが多いです。
環境・養育要因
過度な先回り 大人が子どもの要求を先読みしすぎると、子ども自身が「伝える必要性」を感じにくくなります。
スマートフォンや動画視聴時間の影響 双方向のやり取りが少ない環境では、コミュニケーション機能の発達がゆっくりになる可能性があります。
きょうだい構成 上にきょうだいがいる場合、きょうだいが通訳役を担うことで、本人の表現意欲が低下することがあります。
発達上の配慮が必要な場合
自閉スペクトラム症(ASD)の可能性
- 指差し以外にも、視線が合いにくい、名前を呼んでも振り返らない、模倣遊びをしないなどの特徴が複数見られる場合
聴覚の問題
- 音への反応が鈍い、大きな音でも驚かない、呼びかけへの反応が一定しないなどの場合
全体的な発達の遅れ
- 運動面、認知面、社会性の発達が全般的にゆっくりな場合
家庭でできる効果的なサポート方法
【実践】基本的な関わり方のポイント
1. 子どもの視線を大切にする
【具体例】
子どもが何かを見ているとき:
「〇〇ちゃん、わんわん見てるのね」
「あ、お花きれいだね」
子どもが注目しているものに大人も一緒に注目し、言葉をかけることで「共同注意」の基盤を作ります。
2. 指差しのモデルを見せる
【やり方】
・散歩中:「あ、飛行機!」と指差ししながら
・絵本読み:「うさぎさんはどこかな?ここだね」
・食事中:「りんごどれが食べたい?これ?」
無理に真似させようとせず、大人が自然に指差しを使う姿を見せることが重要です。
3. 要求を少し待つ
【場面別対応】
おもちゃが欲しそうなとき:
× すぐに渡す
○ 「何が欲しいのかな?」と2-3秒待つ
○ 身振りや視線で伝えたら褒める
【月齢別】段階的な働きかけ方法
1歳6か月~1歳8か月
遊びを通したアプローチ
- いないいないばあ遊び:布で顔を隠し、「いないいない…」で指差しして「ばあ!」
- シャボン玉遊び:「シャボン玉どこ?」と探し、見つけたら一緒に指差し
- お散歩での発見遊び:犬、車、花など身近なものを一緒に発見
言語環境の工夫
- 指差しできなくても、視線や身振りでの表現を認める
- 「あ」「う」などの発声があったら「そうだね、わんわんだね」と応答
1歳9か月~2歳
選択場面の設定
【具体例】
おやつタイム:
「りんごとバナナ、どっちがいい?」
(両手に持って子どもの前に提示)
お風呂タイム:
「あひるさんとボール、どれで遊ぶ?」
(浴槽の端に置いて選択を促す)
絵本を活用した指差し練習
- 「だるまさんが」「きんぎょがにげた」など、探し絵本を活用
- 「〇〇はどれ?」ではなく「〇〇がいるね」と共感から始める
【専門家直伝】効果的な環境設定
物理的環境の工夫
- テレビは食事中・遊び中は消す
- おもちゃは一度に3-4個程度に絞る
- 子どもの目線の高さに興味を引くものを配置
コミュニケーション環境の整備
- 1日1回は電子機器なしで向き合う時間を作る
- 子どもが何かを見つめているときは、まず一緒に見る
- 指差しできなくても、伝えようとする気持ちを汲み取る
よくある失敗事例とトラブル回避術
失敗事例1:焦って無理強いしてしまう
失敗パターン 「ほら、指差しして!」「これはなあに?早く指差しして」と急かしてしまい、子どもが萎縮してしまった。
【専門家の視点】なぜダメなのか 指差しは自発的なコミュニケーション欲求から生まれるもの。強制されると、コミュニケーションへの意欲そのものが低下してしまいます。
回避策
- 子どものペースを尊重し、興味を示したタイミングで関わる
- 指差しできなくても、視線や身振りでの表現を認める
- 「すごいね、教えてくれたんだね」など過程を褒める
失敗事例2:他の子と比較してしまう
失敗パターン 「〇〇ちゃんはもう指差ししてるのに」「うちの子だけできない」と比較して不安になり、その気持ちが子どもに伝わってしまった。
【専門家の視点】比較の弊害 子どもは敏感に大人の不安を感じ取ります。比較による焦りは、親子関係にストレスを生み、かえって発達を阻害する可能性があります。
回避策
- 発達には必ず個人差があることを理解する
- 子どものできることに注目し、小さな成長を喜ぶ
- 不安な気持ちは信頼できる専門家に相談する
失敗事例3:スマートフォンに頼りすぎる
失敗パターン 泣き止ませるため、食事中の静かにさせるためにスマートフォンの動画を見せ続けた結果、双方向のやり取りが減ってしまった。
【専門家の視点】デジタル機器の影響 動画視聴は受動的な活動であり、コミュニケーション能力の発達には寄与しません。特に食事中の使用は、家族との会話の機会を奪ってしまいます。
回避策
- スマートフォンの使用は1日30分以内に限定
- 食事中・就寝前は使用しない
- 一緒に歌を歌う、手遊びをするなど代替手段を準備
専門機関への相談タイミング
【チェックリスト】相談を検討すべき目安
2歳になっても以下の状況が続く場合
- [ ] 指差しが全く見られない
- [ ] 名前を呼んでも振り返らないことが多い
- [ ] 目と目が合いにくい
- [ ] 意味のある単語が5個未満
- [ ] 簡単な指示(「おいで」「ちょうだい」)が通らない
- [ ] 模倣遊び(バイバイ、パチパチなど)をしない
- [ ] 人や物への興味が著しく限定的
相談できる専門機関
市町村の発達相談
- 保健センター
- 子育て支援センター
- 児童発達支援センター
医療機関
- 小児科(かかりつけ医)
- 小児神経科
- 発達外来
【専門家のアドバイス】相談時の準備
- 普段の様子を動画で記録
- 成長の記録(いつ頃何ができるようになったか)
- 気になる行動の具体例をメモ
- これまでの健診結果
発達を促す具体的な遊びとアクティビティ
月齢別おすすめ遊び
1歳6か月~1歳8か月向け
1. 宝探しゲーム
【準備物】
・小さなおもちゃ3-4個
・布やタオル
【やり方】
1. おもちゃを布で隠す
2. 「あれ?〇〇はどこ?」と探すそぶり
3. 子どもが見つけたら一緒に喜ぶ
4. 「ここにあったね」と指差し
2. お買い物ごっこ
【準備物】
・おもちゃの果物や野菜
・かご
【やり方】
1. 「りんごを買いに行こう」と声かけ
2. 「りんごはどれかな?」と一緒に探す
3. 子どもが手に取ったら「りんごだね」と確認
4. かごに入れる動作を一緒に行う
1歳9か月~2歳向け
1. 動物当てクイズ
【やり方】
1. 絵本やカードで動物を見せる
2. 「わんわんはどれ?」と質問
3. 子どもの反応を待つ(指差し、視線、身振りなど)
4. 正解したら「そう!わんわんだね」と褒める
2. お料理ごっこ
【準備物】
・おもちゃの食材
・お皿、スプーン
【やり方】
1. 「今日は何を作ろうか?」と相談
2. 材料を一緒に選ぶ
3. 「これとこれを混ぜよう」と指差しながら説明
4. 完成したら「できた!」と一緒に喜ぶ
【実践テクニック】日常生活での働きかけ
朝の着替えタイム
【場面】パジャマから服に着替える
【声かけ例】
「今日はどの服にする?」
「青い服と赤い服、どっちがいい?」
「靴下はどれにしようか?」
お食事タイム
【場面】食事の準備・食事中
【声かけ例】
「スプーンはどれかな?」
「お茶碗とお皿、どっちから食べる?」
「おいしいね、これ何だと思う?」
お風呂タイム
【場面】入浴中の遊び
【声かけ例】
「泡はどこ?」
「あひるさんとボール、どっちで遊ぶ?」
「お湯をかけるよ、どこにかけようか?」
【事例紹介】実際の成長パターン
事例1:Aくん(現在2歳3か月)
背景 1歳6か月健診で指差しができず、言葉も「ママ」「マンマ」程度。歩行は1歳2か月と早く、活発で好奇心旺盛だが、じっとしていることが苦手。
取り組み内容
- 散歩中に興味を示すものを一緒に見る
- 体を動かす遊びの中で選択場面を設ける
- 絵本は短時間で切り上げ、体を使った遊びを重視
成長過程
- 1歳8か月:要求場面で手を伸ばすように
- 1歳10か月:「あ」「お」などの音と共に身振りで要求
- 2歳1か月:初めての指差し(犬を見て)
- 2歳3か月:応答の指差しも可能に
【専門家の分析】 運動発達優位の子どもの典型例。体を動かす活動を通じてコミュニケーションの楽しさを覚え、その後指差しが急速に発達した。
事例2:Bちゃん(現在2歳1か月)
背景 1歳6か月で指差しなし。非常に慎重で、新しい環境や人に対して警戒心が強い。言葉の理解は良好だが表現が乏しい。
取り組み内容
- 安定した環境で少しずつ新しい遊びを導入
- 子どものペースを最重視し、無理強いしない
- 得意な記憶力を活かした遊びを多用
成長過程
- 1歳9か月:馴染みのある環境で視線による要求が増加
- 1歳11か月:好きな絵本の中で応答の指差しが出現
- 2歳1か月:要求・叙述の指差しも可能に
【専門家の分析】 慎重派の子どもは、十分に観察・理解してから行動に移る。無理に急がせず、安心できる環境を提供することで自然な発達を促せた。
【Q&A】保護者からよくある質問
Q1. 人見知りが激しい子でも指差しは覚えますか?
A1. はい、人見知りの強さと指差しの発達は直接関係ありません。むしろ人見知りの強い子は、慣れ親しんだ人との間では豊かなコミュニケーションを取ることが多いです。まずは家族との間で指差しが出現し、その後徐々に他の人との間でも使えるようになります。無理に他人の前で練習させず、安心できる環境で十分に経験を積ませてあげてください。
Q2. 兄弟がいると指差しの発達は遅れますか?
A2. 兄弟構成による影響はケースバイケースです。上に兄姉がいる場合、兄姉が「通訳」してしまい本人の表現意欲が低下することがあります。一方で、兄姉の真似をして急速に発達する場合もあります。大切なのは、下の子と1対1で向き合う時間を意識的に作ることです。1日10-15分でも、下の子だけに集中して関わる時間を設けてみてください。
Q3. 発達障害の可能性があると言われました。指差しの練習は意味がありますか?
A3. 発達障害があってもなくても、コミュニケーションの練習に意味がないことはありません。ただし、アプローチ方法を子どもの特性に合わせて調整する必要があります。視覚的な支援を多用する、一度に一つのことに集中する、子どもの興味関心を起点にするなど、個別の配慮が重要です。専門機関と連携しながら、その子に最適な方法を見つけていきましょう。
Q4. 指差ししないまま2歳になりました。今からでも間に合いますか?
A4. 2歳からでも十分間に合います。実際、2歳前後で急激にコミュニケーション能力が伸びる子どもは少なくありません。ただし、この時期になっても指差しが全く見られない場合は、専門機関での相談をお勧めします。早期の適切な支援により、その後の発達を大きく促進できる可能性があります。
Q5. 共働きで時間が限られています。効率的な働きかけ方はありますか?
A5. 限られた時間でも効果的な働きかけは可能です。以下のポイントを意識してください:
朝の10分
- 着替えや朝食の場面で選択肢を提示
- 「今日も一緒に頑張ろうね」と子どもの目を見て話しかけ
お迎え後の30分
- スマートフォンはオフにして、子どもとの時間に集中
- その日あったことを聞く、一緒に遊ぶ
寝る前の15分
- 絵本の読み聞かせで「〇〇はどれ?」と質問
- 今日楽しかったことを一緒に振り返る
量より質を重視し、子どもと向き合う時間の濃度を高めることが大切です。
まとめ:あなたのお子さんへの最適なアプローチ
【タイプ別】おすすめアプローチ
活発・運動好きタイプのお子さん
- 体を動かす遊びの中に指差しの要素を組み込む
- 短時間で切り替えながら様々な刺激を提供
- 外遊びや散歩での発見を大切にする
慎重・観察好きタイプのお子さん
- 子どものペースを最重視し、無理強いしない
- 安定した環境で繰り返し同じ遊びを楽しむ
- 絵本や静的な遊びを活用する
マイペース・のんびりタイプのお子さん
- ゆったりとした時間の流れを大切にする
- 子どもの興味に寄り添い、深く掘り下げる
- 成長を長期的な視点で見守る
最後に:専門家からのメッセージ
指差しは確かに言語発達の重要な指標ですが、それがすべてではありません。子どもたちはそれぞれ異なるペースで、異なる方法で成長していきます。大切なのは、お子さんの「今」を受け入れ、その子らしい成長を温かく見守ることです。
不安な気持ちは自然な感情ですが、その不安を子どもに向けるのではなく、適切な支援や専門家への相談に向けてください。保護者の皆さんが安心して子育てできることが、お子さんの最良の発達環境につながります。
【重要】いつでも相談を 発達について不安や疑問がある場合は、一人で抱え込まず、信頼できる専門家に相談してください。早めの相談が、お子さんとご家族の安心につながります。
お子さんの豊かな成長を心から応援しています。