1歳半検診で「言葉の遅れ」を指摘されたママ・パパへ
「うちの子、まだ『ママ』『パパ』しか言えないけど大丈夫?」「1歳半検診で言葉の発達について相談された…このままで大丈夫なの?」
そんな不安を抱えているあなたへ。保育士歴15年、言語聴覚士の資格も持つ専門家として、多くの親子と向き合ってきた経験から、この記事では以下のことが分かります:
- 1歳半の言葉の発達の「正常な範囲」と個人差の実態
- 検診で「要観察」と言われた時の正しい対応法
- 自宅でできる効果的な言葉の発達サポート方法
- 専門機関への相談タイミングと選び方
- 言葉の遅れの背景にある可能性と対策
この記事を読み終える頃には、お子さんの言葉の発達について正しく理解し、今すべきことが明確になり、不安から前向きな行動に変わっていることでしょう。
1. 1歳半検診における言葉の発達チェック項目と基準
1歳半検診で確認される言葉の発達項目
厚生労働省の「乳幼児健康診査事業実践ガイド」によると、1歳半検診では以下の項目がチェックされます:
チェック項目 | 標準的な発達の目安 | 個人差の範囲 |
---|---|---|
意味のある単語 | 3~5語以上 | 1~10語程度 |
指差し | 要求・共感・応答の指差し | 月齢±3ヶ月程度の差 |
大人の言葉の理解 | 簡単な指示に従える | 理解度に個人差あり |
コミュニケーション意欲 | アイコンタクト、表情のやりとり | 性格による差あり |
【専門家の視点】1歳半で「要観察」と判定される基準
実際の検診現場では、以下のような状況で「要観察」や「専門機関への相談」が推奨されます:
- 単語が全く出ていない(喃語のみ)
- 大人の言葉への反応が乏しい
- 指差しが全くできない
- アイコンタクトが取りにくい
- 名前を呼んでも振り返らない
ただし、これらの項目があてはまっても、必ずしも発達に問題があるわけではありません。子どもの発達には大きな個人差があり、特に言葉の発達は「蓄積期間」を経て急激に伸びることが多いのです。
2. 言葉の発達の個人差と「正常な範囲」の理解
1歳~2歳の言葉の発達には大きな個人差がある
言語発達学の研究によると、1歳半時点での語彙数には以下のような個人差が報告されています:
【語彙数の分布(1歳半時点)】
- 50パーセンタイル(標準): 約8~15語
- 25パーセンタイル: 約3~6語
- 10パーセンタイル: 約1~3語
- 90パーセンタイル: 約30~50語
つまり、1歳半で語彙が少なくても、10人に1人は正常な発達の範囲内ということになります。
言葉の発達に影響する要因
【生物学的要因】
- 性別: 一般的に女の子の方が言葉の発達が早い傾向
- 出生体重: 低出生体重児は言葉の発達がやや緩やか
- 聴覚: 中耳炎の繰り返しなどによる聞こえの問題
【環境的要因】
- 兄弟構成: 第一子の方が言葉が早い傾向(大人との会話機会が多いため)
- 親子の会話量: 日常的な声かけの量と質
- メディア接触: テレビ・スマホの視聴時間が長いと言葉の発達に影響
【専門家の視点】「言葉の爆発期」を理解する
多くの子どもは**1歳半~2歳頃に「言葉の爆発期」**を迎えます。それまで単語が少なかった子でも、この時期に急激に語彙が増加することがよくあります。
言葉の爆発期の兆候:
- 物の名前に興味を示す(「これなに?」の質問が増える)
- 大人の言葉を真似しようとする
- 身振り手振りが豊かになる
- 歌や手遊びに反応する
3. 1歳半検診で「要観察」と言われた時の対応ステップ
STEP1: 冷静に現状を整理する
検診で指摘を受けた時は、まず以下の点を整理しましょう:
【チェックリスト】 □ 子どもの現在の発達状況(できること・できないこと) □ 家庭での言葉かけの状況 □ 聴覚に問題がないか(呼んでも振り返らない等) □ 他の発達領域(運動、社会性)の状況 □ 子どもの性格や興味の傾向
STEP2: 専門機関への相談を検討
【相談先の選択肢】
相談先 | 特徴 | 費用 | 相談内容 |
---|---|---|---|
市町村の発達相談 | 身近でアクセスしやすい | 無料 | 発達全般の相談 |
言語聴覚士(ST) | 言葉の専門家 | 保険適用可 | 言語発達の詳細評価 |
小児科医 | 医学的観点からの評価 | 保険適用 | 全身状態と発達の関連 |
療育センター | 総合的な支援 | 無料~有料 | 個別支援計画の作成 |
STEP3: 日常生活での具体的な取り組みを開始
専門機関の相談と並行して、家庭でできることから始めましょう。
4. 自宅でできる効果的な言葉の発達サポート方法
基本原則:子どもの興味に寄り添う
言葉の発達を促すために最も重要なのは、子どもが興味を持っていることに大人が寄り添うことです。
【実践方法1】日常生活での声かけテクニック
【朝の着替え場面】
× 「早く着替えなさい」
○ 「あ、○○ちゃんのお気に入りの赤いTシャツだね」
○ 「袖に手を通すよ。すっぽーん!」
○ 「靴下はいてみようか。ぴったりだね」
【お風呂場面】
× 無言で体を洗う
○ 「あったかいお湯だね」
○ 「泡がぶくぶく~」
○ 「頭をしゃんぷーしようね」
○ 「きれいになったね」
【実践方法2】遊びを通した言葉の発達支援
【絵本の読み聞かせのコツ】
- 繰り返し読む: 同じ絵本を何度も読むことで言葉が定着
- 子どものペースに合わせる: 最後まで読まなくてもOK
- 絵を指差しながら: 「これは犬だね」「わんわんだね」
- 効果音を大切に: 「がたんごとん」「ぴょんぴょん」
【手遊び歌の活用】
- いないいないばあ: 言葉のリズムと動作の組み合わせ
- パンダうさぎコアラ: 動物の名前と動作
- 大きな栗の木の下で: 体の部位の名前
【実践方法3】子どもの発語を促す環境作り
【待つことの重要性】 子どもが何かを伝えようとしている時は、急かさずに3~5秒程度待つことが大切です。
【言い直しの技術】
子ども:「まんま」
大人:「ご飯だね。美味しいご飯だね」
(子どもの言葉を否定せず、正しい言葉を添える)
5. 言葉の遅れの背景にある可能性と対策
聴覚の問題
【チェックポイント】
- 後ろから名前を呼んでも振り返らない
- 大きな音にも反応しない
- 中耳炎を繰り返している
【対策】
- 耳鼻咽喉科での聴力検査
- 中耳炎の治療
- 補聴器等の検討(必要に応じて)
発達障害の可能性
1歳半の段階では確定診断は困難ですが、以下のような特徴がある場合は継続的な観察が必要です:
【自閉スペクトラム症(ASD)の早期兆候】
- アイコンタクトが取りにくい
- 人への関心が薄い
- 同じ行動を繰り返す
- 感覚の過敏性や鈍感性
【注意欠如・多動性障害(ADHD)の早期兆候】
- じっとしていられない
- 注意が続かない
- 衝動的な行動が多い
環境要因
【改善可能な環境要因】
- テレビ・スマホの視聴時間: 1日2時間以内に制限
- 親子の対話時間: 意識的に増やす
- 読み聞かせの習慣: 毎日少しずつでも継続
6. 専門機関での評価と支援内容
言語聴覚士による評価
【評価内容】
- 受容言語: どのくらい言葉を理解しているか
- 表出言語: どのくらい言葉を話せるか
- コミュニケーション意欲: 伝えたい気持ちがあるか
- 口腔機能: 食べる・飲む・話すための機能
療育・言語訓練の内容
【個別訓練】
- 子どもの発達レベルに合わせたプログラム
- 遊びを通した言葉の練習
- 保護者への家庭でのサポート方法指導
【グループ訓練】
- 同年代の子どもとの関わり
- 社会性の発達支援
- 集団での言葉のやりとり練習
7. よくある失敗事例と回避方法
失敗事例1:過度な心配による過干渉
【失敗パターン】 「言葉が遅い」と心配するあまり、一日中子どもに話しかけ続けたり、無理やり発語を促そうとする。
【なぜ失敗するのか】 子どもにとってプレッシャーとなり、かえって話したがらなくなる。
【回避方法】
- 子どものペースを尊重する
- 楽しい雰囲気での自然な関わりを心がける
- 無理強いは絶対にしない
失敗事例2:他の子との比較
【失敗パターン】 「○○ちゃんはもうたくさん話せるのに、うちの子は…」と他の子と比較してしまう。
【なぜ失敗するのか】 親の不安が子どもに伝わり、親子関係にストレスが生じる。
【回避方法】
- 子どもの成長は個人のペースがあることを理解する
- 他の子ではなく、その子自身の成長に注目する
- 小さな成長も認めて褒める
失敗事例3:専門機関への相談の先延ばし
【失敗パターン】 「まだ1歳半だから様子を見よう」と専門機関への相談を先延ばしにする。
【なぜ失敗するのか】 早期介入の機会を逃し、適切な支援が遅れる可能性がある。
【回避方法】
- 「相談=問題がある」ではないことを理解する
- 早めの相談で安心感を得る
- 相談後に「問題なし」と分かることも多い
8. 年齢別・タイプ別の具体的アプローチ方法
1歳2ヶ月~1歳5ヶ月の子への働きかけ
【この時期の特徴】
- 歩行が安定し、探索行動が活発
- 指差しが出始める
- 大人の言葉への理解が進む
【効果的なアプローチ】
- 実況中継: 子どもの行動を言葉で表現「歩いてるね」「触ってるね」
- 選択の機会: 「りんごとバナナ、どっち?」
- 歌や手遊び: リズムに合わせた言葉遊び
1歳6ヶ月~1歳11ヶ月の子への働きかけ
【この時期の特徴】
- 単語が増え始める(言葉の爆発期の準備)
- 2語文の芽生え
- 模倣が上手になる
【効果的なアプローチ】
- 拡張: 子どもの「まんま」に対して「おいしいご飯だね」
- 並行トーク: 子どもと同じものを見ながら「きれいなお花だね」
- 待つ時間: 子どもの発語を5秒程度待つ
性格タイプ別アプローチ
【慎重・内向的な子】
- 無理強いしない
- 安心できる環境作り
- 親との1対1の時間を大切に
【活発・外向的な子】
- 動きながらの言葉遊び
- 短時間集中の活動
- 体を使った表現遊び
9. 保護者の心のケアと向き合い方
子どもの発達への不安との向き合い方
【不安な気持ちは当然のこと】 我が子の発達について心配になるのは、親として当然の感情です。大切なのは、その不安を子どもにぶつけないこと。
【専門家からのメッセージ】 15年間、多くの親子を見てきた経験から言えることは、**「子どもは必ず成長する」**ということです。そのペースは一人ひとり違いますが、適切な支援と愛情があれば、必ず伸びていきます。
パートナーや家族との連携
【家族全体での取り組み】
- 子どもへの接し方を家族で統一する
- お互いの不安や心配を共有する
- 役割分担をして負担を分散する
10. 2歳以降の見通しと継続的な支援
2歳での言葉の発達目安
【2歳時点での目安】
- 語彙数:50~200語
- 2語文の出現:「ママ、だっこ」「ワンワン、いた」
- 簡単な質問への応答
継続的な支援のポイント
【長期的な視点で考える】 言葉の発達は一生涯続くものです。1歳半~2歳の時期は基盤作りの時期と考え、焦らず継続的に支援することが大切です。
【3歳児健診への準備】 1歳半で気になった点について、継続的に記録を取り、3歳児健診で相談できるよう準備しておきましょう。
11. よくある質問(Q&A)
Q1: 人見知りが激しい子でも言葉は伸びますか?
A: はい、人見知りと言葉の発達は直接関係ありません。むしろ、人見知りが強い子は観察力が高く、言葉を内に蓄積している場合が多いです。無理に人との関わりを増やそうとせず、安心できる人との関わりを深めることが大切です。
Q2: 発達がゆっくりな子でも療育は効果がありますか?
A: はい、発達のペースに関わらず、適切な支援は効果があります。療育は「遅れを取り戻す」のではなく、「その子らしい成長を支援する」ものです。早期に始めることで、より良い効果が期待できます。
Q3: 共働きでも家庭でのサポートはできますか?
A: もちろんです。時間の長さではなく、関わりの質が重要です。短時間でも集中して子どもと向き合う時間を作る、日常の生活の中で意識的に声かけをするなど、工夫次第で十分なサポートができます。
Q4: 上の子と比べて明らかに遅いのですが…
A: 兄弟でも発達のペースは大きく異なります。第二子以降は、上の子が代弁してしまうため、話す必要性を感じにくく、言葉が遅くなることもよくあります。それぞれの子どもの個性として捉え、比較しないことが大切です。
Q5: テレビやスマホは完全にやめた方がいいですか?
A: 完全に禁止する必要はありませんが、日本小児科学会では2歳まではテレビ・ビデオの視聴を控えることを推奨しています。どうしても必要な場合は、親子で一緒に見て、内容について話し合うことで教育的効果を高められます。
まとめ:あなたのお子さんに最適なアプローチを見つけよう
【結論】1歳半検診で言葉が気になった時にすべきこと
- 冷静に現状を把握する:個人差が大きい時期であることを理解
- 専門機関への相談を検討する:早めの相談で安心感を得る
- 家庭でできることから始める:日常生活での声かけと遊びを充実
- 子どものペースを尊重する:無理強いせず、楽しい関わりを心がける
- 継続的な支援を意識する:短期的な結果を求めず、長期的視点で取り組む
タイプ別おすすめアプローチ
【慎重派の保護者の方へ】 まずは市町村の無料相談から始めて、必要に応じて専門機関につなげていくのがおすすめです。焦らず、着実に情報収集をしていきましょう。
【積極派の保護者の方へ】 複数の専門機関に相談したり、様々な取り組みを試したりするのも良いですが、子どもが疲れてしまわないよう、バランスを取ることが大切です。
【心配性の保護者の方へ】 不安な気持ちは自然なことです。一人で抱え込まず、専門家や同じような経験をした保護者と繋がることで、心の負担を軽減していきましょう。
最後に
お子さんの言葉の発達について心配されているあなたの気持ちは、とても自然で大切なものです。その愛情があれば、きっとお子さんは健やかに成長していきます。
**一人ひとりの子どもには、その子だけの成長のリズムがあります。**他の子と比べるのではなく、お子さん自身の小さな成長を見つけて、一緒に喜んでいけるような子育てを心がけてください。
専門家としての経験から断言できるのは、適切な支援と愛情があれば、子どもは必ず成長するということです。今日からできることを一つずつ始めて、お子さんの明るい未来に向けて歩んでいきましょう。