はじめに:多くの保護者が抱える「言葉の遅れ」への不安
「周りの子はもう『ママ』『パパ』以外にもたくさん話しているのに、うちの子はまだ…」 「1歳半健診で言葉の遅れを指摘されて、どうしたらいいか分からない」 「YouTube や絵本を見せているけれど、これで本当に言葉が出るようになるの?」
1歳半頃の言葉の発達について、このような悩みを抱えている保護者の方は決して少なくありません。
この記事で分かること:
- 1歳半の言葉の発達の目安と「遅れ」の判断基準
- 言葉の遅れの原因と家庭でできる効果的な遊び方法
- 専門機関への相談タイミングと支援サービスの活用法
- 子どもの発達ペースに合わせた無理のない取り組み方
言葉の発達は個人差が大きく、焦る必要はありません。しかし、適切な遊びと関わり方で、お子さんの言葉への興味を育むことは可能です。
1歳半の言葉の発達:標準的な目安と個人差の理解
一般的な1歳半の言葉の発達目安
文部科学省「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について」 および 厚生労働省「乳幼児身体発育調査」 によると、1歳半の子どもの言葉の発達目安は以下の通りです:
発達項目 | 標準的な目安 | 個人差の範囲 |
---|---|---|
意味のある単語 | 5〜10語程度 | 3〜20語 |
指差し | 要求・共感の指差しができる | 1歳〜1歳8ヶ月頃 |
模倣 | 手遊びや動作の模倣 | 1歳2ヶ月〜1歳10ヶ月頃 |
理解語彙 | 50〜100語程度理解 | 30〜150語 |
二語文 | まだ出ないことが多い | 1歳半〜2歳頃から |
【専門家の視点】言葉が「遅い」と判断する基準
児童発達支援士としての経験から、以下の場合は専門機関への相談を検討することをお勧めします:
要注意のサイン:
- 1歳8ヶ月を過ぎても意味のある単語が3語未満
- 名前を呼んでも振り返らない頻度が高い
- 指差しが全く見られない
- 簡単な指示(「おいで」「ちょうだい」)が通らない
- 模倣遊び(いないいないばあ、手遊びなど)に興味を示さない
ただし、これらがあっても必ずしも発達に問題があるわけではありません。子どもの発達は波があり、急に伸びる時期もあるためです。
言葉の遅れの主な原因と家庭環境での改善ポイント
言葉の発達を妨げる要因
脳科学研究(東京大学大学院・開一夫教授らの研究)によると、乳幼児期の言葉の発達には以下の要因が影響します:
1. 聴覚の問題
- 中耳炎の繰り返しによる聞こえの不安定さ
- 先天性の聴覚障害
2. 発達の特性
- 自閉スペクトラム症による言葉の出方の違い
- 知的発達の遅れ
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)傾向
3. 環境要因
- スマートフォンやタブレットの過度な使用
- 大人との対話の機会の不足
- 兄弟構成(第一子は話しかけられる機会が多い傾向)
4. 個性・気質
- 慎重派で観察期間が長い子
- 体を動かすことを好み、言葉より行動で表現する子
家庭でできる言葉の発達促進環境づくり
【専門家の視点】効果的な環境改善策
- 「待つ」時間を意識的に作る
- 子どもが何かを要求する際、すぐに察して与えず、3〜5秒待つ
- 「何が欲しいのかな?」と声かけし、子どもの発語を促す
- スクリーンタイムの見直し
- 1歳半では1日30分以内が推奨(日本小児科学会)
- 一方的な視聴ではなく、大人と一緒に見て会話する
- 家庭内での言葉かけの質を向上
- 実況中継型の声かけ(「お水を飲んでいるね」「積み木を積んでいるね」)
- 子どもの気持ちを代弁(「悲しかったね」「嬉しいね」)
効果的な遊び方法:発達段階別アプローチ
レベル1:言葉への興味を育む基礎的な遊び(1歳〜1歳6ヶ月)
わらべうた・手遊び
効果的な理由: 脳科学者・大井静雄氏の研究によると、リズムと言葉の組み合わせは言語野の発達を促進します。
具体的な遊び方:
遊び名 | やり方 | 言葉の発達効果 |
---|---|---|
いないいないばあ | 「いないいない」で期待感を作り、「ばあ」で現れる | 語調・リズム感の習得 |
たかいたかい | 「たかい、たかい」と言いながら持ち上げる | 感情と言葉の結びつき |
ぱたぱた | 手をひらひらしながら「ぱたぱた」 | 擬音語の理解 |
【専門家のコツ】
- 毎回同じ言葉・同じリズムで行う
- 子どもの表情を見ながら、楽しそうな時に繰り返す
- 無理に言わせようとせず、子どもが口を動かしたら大げさに褒める
擬音語・擬態語を使った遊び
動物の鳴き声遊び:
- 「わんわん」(犬)
- 「にゃーにゃー」(猫)
- 「ぶーぶー」(車)
- 「がおー」(ライオン)
日常の音を言葉にする:
- 食事:「もぐもぐ」「ごっくん」
- 移動:「てくてく」「よちよち」
- 水遊び:「じゃばじゃば」「ぱしゃぱしゃ」
レベル2:語彙を広げる遊び(1歳6ヶ月〜2歳)
絵本の読み聞かせ(言葉を引き出すテクニック)
従来の読み聞かせとの違い: ただ読むのではなく、対話型読み聞かせを実践します。
具体的な手法:
- 「これ何かな?」方式
- 絵を指差して「これ何かな?」と質問
- 答えられなくても「りんごだね!」と教える
- 次のページで「さっきのりんご、どこかな?」
- 「どうなるかな?」方式
- ページをめくる前に予想させる
- 「うさぎさん、どこに行くのかな?」
- 子どもなりの答えを受け入れる
- 感情の言語化
- 「うさぎさん、嬉しそうだね」
- 「泣いちゃった、悲しいのかな」
おすすめ絵本(言葉の発達に特化):
絵本名 | 特徴 | 言葉の発達効果 |
---|---|---|
「だるまさんが」シリーズ | 繰り返しとリズム | 音韻意識の発達 |
「いやだいやだ」 | 感情表現 | 気持ちを表す語彙 |
「くっついた」 | 動作語 | 動詞の理解 |
「じゃあじゃあびりびり」 | 擬音語中心 | 音と物の結びつき |
日常生活の言語化遊び
食事場面での言葉かけ:
「にんじん、オレンジ色だね」
「あつあつだから、ふーふーしようか」
「もぐもぐ、おいしいね」
「おなかいっぱいになったかな?」
お風呂での言葉遊び:
「あわあわ、ふわふわだね」
「お湯、あったかいね」
「頭、ごしごししよう」
「さっぱりしたね」
レベル3:二語文への橋渡し遊び(1歳8ヶ月〜2歳2ヶ月)
ごっこ遊びでの言葉の発達
人形やぬいぐるみを使った遊び:
- お世話遊び
- 「うさぎさん、ねんねしようか」
- 「お腹すいたって」
- 「お薬飲もうね」
- お店屋さんごっこ
- 「いらっしゃいませ」
- 「これください」
- 「ありがとうございました」
【専門家の視点】ごっこ遊びの言語発達効果
モンテッソーリ教育の観点から、ごっこ遊びは以下の言語能力を育みます:
- 語用論:場面に応じた言葉の使い分け
- 社会性語彙:挨拶や社会的なやりとりの言葉
- 想像力と言語の結合:頭の中のイメージを言葉で表現する力
選択肢を与える遊び
子どもに選択させることで、自発的な発語を促します。
日常場面での選択肢提示:
- 「りんごとバナナ、どっち食べる?」
- 「赤い服と青い服、どっち着る?」
- 「公園と散歩、どっちにする?」
遊びでの選択肢:
- 「積み木と電車、どっちで遊ぶ?」
- 「歌とダンス、どっちがいい?」
専門的な支援・教材の活用方法
発達支援センター・療育機関の活用
相談のタイミング
以下の場合は専門機関への相談を検討:
- 1歳8ヶ月時点で
- 意味のある単語が3語未満
- 指差しが見られない
- 簡単な指示が通らない
- 2歳時点で
- 単語が10語未満
- 二語文が全く見られない
- コミュニケーション意欲が低い
利用できる支援サービス
児童発達支援事業所
- 対象:未就学児
- 内容:言語聴覚士による個別指導・小集団療育
- 費用:所得に応じた負担(多くの場合月数千円〜1万円程度)
地域の子育て支援センター
- 言語聴覚士による相談(多くの自治体で無料)
- 発達検査の実施
- 親向けの勉強会・交流会
通信教育・知育教材の効果的な活用
言語発達に特化した教材比較
教材名 | 対象年齢 | 月額料金 | 特徴 | 言語発達への効果 |
---|---|---|---|---|
こどもちゃれんじぷち | 1〜2歳 | 2,990円 | しまじろうとの遊び中心 | 生活語彙・挨拶の習得 |
ベビーくもん | 0〜2歳 | 2,200円 | 読み聞かせ重視 | 語彙力・聞く力の向上 |
ディズニー英語システム | 0〜12歳 | 初期費用30〜90万円 | 英語環境の構築 | バイリンガル育成 |
【専門家の評価】効果的な活用法
- こどもちゃれんじの場合
- メリット:月齢に合った発達課題、親への解説が丁寧
- デメリット:おもちゃが増えすぎる可能性
- 効果的な使い方:DVDを見る際は必ず親も一緒に見て、出てきた言葉を日常でも使う
- ベビーくもんの場合
- メリット:月1回の面談で使い方をアドバイス
- デメリット:親の関わり方に効果が左右される
- 効果的な使い方:絵本の読み方を先生に教わり、家庭で実践
知育玩具での言語発達促進
言葉の発達に効果的な知育玩具
年齢別おすすめ玩具:
1歳〜1歳半向け
- おしゃべりトーマス(タカラトミー)
- 効果:擬音語・擬態語の学習
- 価格:3,000円前後
- 使い方:大人が一緒に「がたんごとん」と言いながら遊ぶ
- アンパンマンことばずかん(セガトイズ)
- 効果:語彙力の向上
- 価格:7,000円前後
- 使い方:ペンでタッチした時の音声を親が復唱
1歳半〜2歳向け
- レゴデュプロ基本セット
- 効果:創造性と説明能力
- 価格:5,000円前後
- 使い方:「何を作ったの?」「どうやって作ったの?」と質問
よくある失敗事例とトラブル回避術
失敗事例1:焦りすぎて逆効果になるパターン
失敗の具体例: 「1歳半健診で言葉の遅れを指摘され、毎日のように『ママって言って』『ワンワンは?』と子どもに発語を求め続けた。結果、子どもが委縮してしまい、余計に話さなくなってしまった。」
回避策:
- 「教える」より「遊ぶ」姿勢を大切に
- 子どもが楽しんでいる時に自然に言葉をかける
- 発語を強要せず、子どもなりの表現(身振り、表情など)も認める
失敗事例2:スクリーンタイムに頼りすぎるパターン
失敗の具体例: 「言葉の発達にいいと聞いて、教育番組やアプリを1日2〜3時間見せていた。子どもは静かに見ているが、実際の発語は増えず、親との関わりを求めなくなった。」
回避策:
- スクリーンタイムは1日30分以内に限定
- 見る時は必ず親も一緒に参加
- 画面の内容について会話する時間を作る
失敗事例3:完璧主義で親が疲弊するパターン
失敗の具体例: 「毎日決まった時間に絵本の読み聞かせ、手遊び、言葉かけを完璧にこなそうとした。親が疲れてイライラし、子どもとの時間が楽しくなくなった。」
回避策:
- 「毎日少しずつ」の積み重ねを重視
- 完璧を目指さず、できる範囲で継続
- 親子ともに楽しめることを最優先
発達段階に応じた取り組みスケジュール
月齢別実践プラン
1歳0ヶ月〜1歳3ヶ月:基礎づくり期
1日のスケジュール例:
朝の時間(10分):「おはよう」の歌、お着替えの実況中継
午前の遊び(15分):手遊び、わらべうた
昼食時(随時):食事の実況中継、「おいしいね」の共感
午後の遊び(15分):絵本1〜2冊、擬音語遊び
お風呂(10分):体の部位を言いながら洗う
就寝前(10分):子守唄、1日の振り返り
1歳4ヶ月〜1歳7ヶ月:語彙拡大期
新たに加える要素:
- 選択肢を与える場面を1日3回以上
- ごっこ遊びの導入(週2〜3回、各10分)
- お散歩での「発見遊び」(「あ、わんわんがいるね」)
1歳8ヶ月〜2歳:二語文準備期
重点的に取り組む内容:
- 「○○が××してる」形式の実況中継
- 感情を表す言葉の積極的な使用
- 子どもの発語への適切な拡張(子どもが「わんわん」と言ったら「大きいわんわんだね」)
【重要】専門機関への相談タイミングと連携
早期相談が推奨される具体的なサイン
1歳半時点での要注意サイン:
- 人との関わりを避ける傾向が強い
- 呼びかけに応じない頻度が高い(聴覚検査で問題がない場合)
- 極端に偏った興味(一つのことに執着し、他に関心を示さない)
- 急激な発達の退行(以前できていたことができなくなる)
地域リソースの活用方法
段階的相談アプローチ:
- 第一段階:地域の保健センター
- 1歳半健診での相談
- 保健師による継続フォロー
- 発達に関する親の勉強会参加
- 第二段階:発達支援センター
- 専門職(言語聴覚士、臨床心理士)による評価
- 個別相談・アドバイス
- 親子教室への参加
- 第三段階:医療機関
- 小児科医による総合的な評価
- 必要に応じた専門検査
- 療育手帳や受給者証の取得サポート
【専門家の視点】相談時に準備すべき情報
効果的な相談のための準備リスト:
- 子どもの発達記録
- 初語の時期、現在使える言葉のリスト
- 指差しの様子、模倣の程度
- 日常生活での理解力
- 家庭環境の情報
- 家族構成、主な養育者
- 日常的な関わり方
- 気になる行動や特徴
- 具体的な困りごと
- 「何に一番困っているか」
- 「どんな支援を希望するか」
- 「家庭でできることは何か」
【実践】今日から始められる10の具体的取り組み
すぐに実践できる簡単な方法
- 朝の挨拶を歌にする 「おはよう、おはよう、○○ちゃん」とメロディをつけて
- 食事中の実況中継 「にんじん、かりかり噛んでるね」「スプーン、上手に持ててるね」
- お散歩での発見ゲーム 「あ、猫ちゃん見つけた!」「お花、きれいだね」
- 就寝前の1日振り返り 「今日は公園に行ったね」「滑り台、楽しかったね」
- 家事をしながらの歌がけ 洗濯物を畳みながら「たたんで、たたんで、きれいきれい」
- 感情の言語化習慣 子どもの表情を見て「嬉しそうだね」「ちょっと困ってるのかな」
- 選択肢のある質問 「バナナとりんご、どっちがいい?」
- 手遊びの定番化 毎日同じ手遊びを同じタイミングで(お風呂上がりなど)
- 擬音語の積極活用 「車、ブーブー通ったね」「雨、ポツポツ降ってるね」
- 子どもの発語への適切な反応 どんな音でも「お話ししてくれたね」と受け入れる
まとめ:お子さんのペースを大切にした言葉の発達支援
最も重要な3つのポイント
- 焦らず、子どものペースを尊重する 言葉の発達には大きな個人差があります。他の子と比較せず、お子さんなりの成長を見守りましょう。
- 親子の楽しい時間を最優先にする 「教育」より「遊び」、「効果」より「楽しさ」を大切に。親子が笑顔で過ごせる時間が、最高の言葉の発達環境です。
- 必要な時は専門家の力を借りる 心配な時は一人で抱え込まず、地域の専門機関に相談を。早期の適切な支援が、子どもの可能性を最大限に引き出します。
あなたのご家庭に合った取り組み方
のんびり派のご家庭: 日常生活の中での自然な関わりを重視。無理をせず、できる範囲で言葉かけを増やしていく。
積極派のご家庭: 通信教育や知育玩具も活用しながら、計画的に言葉の発達を促進。ただし、子どもの反応を見ながら調整する。
心配が強いご家庭: 早めに専門機関に相談し、安心できる環境を整える。専門家のアドバイスを受けながら家庭での取り組みを実践。
最後に:言葉は愛情とともに育つ
言葉の発達で最も大切なのは、「正しい発音」や「語彙数」ではありません。それは、「誰かとコミュニケーションを取りたい」という気持ちです。
お子さんが安心して自分を表現できる環境、失敗を恐れずに声を出せる雰囲気、そして何より「自分の声に誰かが耳を傾けてくれる」という体験が、言葉の発達の土台となります。
完璧を目指さず、今この瞬間の親子の時間を大切にしながら、お子さんの言葉の芽を一緒に育てていきましょう。