「ちょっとしたことですぐ泣いてしまう」「失敗を極端に怖がる」「友達とのトラブルから立ち直れない」——この記事では、幼児教育・臨床心理学の専門家6名が公開している見解と、実際の研究データをもとに、幼児期のレジリエンス(立ち直る力)の育て方を整理します。
- 「折れない強さ」ではなく「しなやかに戻る力」——正確な定義と現代社会での背景
- 6名の専門家が語るレジリエンス育成の核心(大豆生田・小関・嶋村・ボーク重子・増田・沢井)
- 安全基地と愛着形成——最重要基盤をなぜ前に置くか
- 年齢別(2〜6歳)の具体的な声かけと関わり方
- 「頑張れ」が逆効果になる場面と代わりの言葉
- 「レジリエンスにとらわれすぎないことが大切」という逆張りの視点
レジリエンスとは——「強い心」ではなく「しなやかな心」
「レジリエンス(Resilience)」はもともと物理学の「弾力性・復元力」を意味する言葉です。心理学では「困難・失敗・強いストレスや逆境に直面した際に、そのショックから回復し、状況に適応していく力・心の弾力性やしなやかさ」を指します。
日本ストレスマネジメント学会事務局長の小関俊祐氏は、レジリエンスについて「『絶対に負けないぞ!』というイメージではなく、『よーし、負けないぞ!』というイメージ」であり、「別に負けてもいい」くらいの心持ちで十分だと述べています。
育て方への示唆:「泣かない・弱音を言わない強い子」を目指すのではなく、「泣いてもいいし失敗してもいい、でもその後に自分のやり方で立ち直れる子」が目標です。「感情を持たない強さ」はレジリエンスではありません。
TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志氏は、子どもたちの「遊ぶ機会・遊ぶ時間の激減」がレジリエンス低下の背景にあると指摘しています。レジリエンスは多様な遊びの中で自然に身についていく力であり、遊ぶ機会が減ったことで、身につけるきっかけが失われつつある。
安全基地——レジリエンス育成の最重要基盤
どの専門家の視点よりも先に位置づける必要があるのが「安全基地(Safe Base)」の概念です。
愛着理論では、安全な環境と安心できる関わりを子どもに提供する「特定の存在」を「安全基地」と呼びます。安全基地があることで子どもは困難に直面した時に「一度立ち止まって自分を振り返り、その後で次に進むための力を取り戻す」ことができます。
なぜ先に置くか:友達とのトラブル・試合での敗北・挑戦の失敗——これらの場面で子どもが「立ち直れるか」どうかは、安心して帰れる場所があるかどうかに最も依存します。安全基地のない状態でレジリエンス育成の「技法」だけを教えても効果が薄いです。
- 子どもが話しかけてきた時に手を止めて聞く——「今忙しいから後で」の積み重ねが安全基地を崩す
- 感情を否定しない——「泣かないの」「それくらい大丈夫」は子どもが感情を開示しなくなる原因(第1位)
- 失敗した時に責めない——「だから言ったでしょ」という反応は次の挑戦を妨げる
- 親自身が感情的に安定している——子どもは親の感情状態に敏感で、親が不安定だと安全基地として機能しない
6人の専門家が語るレジリエンスの育て方
①「好き!」が育む——大豆生田啓友氏(玉川大学教授)
大豆生田教授は、レジリエンスを含む非認知能力を伸ばすために最も重要なのは「主体性」だと述べています。
②「失敗体験」が育む——ボーク重子氏(ICF認定ライフコーチ)
ボーク重子氏は「やりたいことを目いっぱいやって失敗した、その経験が折れない心を育てる」と述べています。
③褒め方・叱り方がレジリエンスを左右する——実証研究から
神戸大学・西村和雄特命教授と同志社大学・八木匡教授は、子ども時代の褒め方・叱り方と成人後への影響を調査。結果、褒め方では「頑張ったね」と努力を評価する言葉が「えらいね」という能力評価や「褒美」より長期的にポジティブな影響を残し、叱り方では「次は頑張ろうね」と励ます言葉が「どうしてできないの」という叱責や「罰」より良い影響を与えることが明らかになりました(神戸大学および経済産業研究所〈RIETI〉の公表資料より)。
- 「頭がいいね」「才能があるね」(能力を褒める)
- 「えらいね」「すごいね」(結果だけを褒める)
- 「どうしてできないの」(叱責)
- 「だから言ったでしょ」(失敗を責める)
- ご褒美・罰(外的なコントロール)
- 「一生懸命考えたね」「練習し続けたね」(過程を褒める)
- 「諦めずにやったね」(粘り強さを褒める)
- 「次は頑張ろうね」(励ます)
- 「どこが難しかった?一緒に考えよう」(失敗を学習の場に)
- 「まだできない。もう少し試してみよう」(「まだ」を加える)
④「ストレスの発散手段」を持つことがレジリエンス——小関俊祐氏
小関氏の観点で重要なのは、レジリエンスとは「困難に真正面からぶつかってストレスを蹴散らすこと」だけが対処法ではないという点です。
⑤異年齢との交流がレジリエンスを高める——野上美希氏
⑥「レジリエンスにとらわれすぎない」——沢井佳子氏(重要な逆張り視点)
6人の中で最も重要な逆張り視点を持つのが沢井氏です。
「好き」を見つける支援という観点では、子どもが夢中になれる遊びを増やすことがそのまま土台づくりになります。家庭でできるSTEM教育の実践30選や感触遊びアイデア15選、指先知育完全ガイドに、道具をあまり使わずに始められる活動をまとめています。
年齢別:今日から使える具体的な関わり方
2〜3歳:「感情の通訳者」になる
2〜3歳はまだ感情を言葉で表現することが難しく、泣く・怒る・叩くなどの行動で表します。この時期の親の役割は「今○○な気持ちなんだね」と感情に名前をつけてあげる「通訳」です。感情を否定されず「分かってもらえた」という体験が、安全基地の形成と感情調整力の基盤になります。
- 「すごく怒ってるんだね。○○君がおもちゃを取ったから?」(原因を一緒に確認)
- 「悲しくて泣いてるんだね。泣いていいよ。落ち着いたら話しようね」(感情を受容)
- 「嬉しくて跳び上がりたい気持ち?」(ポジティブ感情も言語化)
- 自分で靴を履いた→「自分でできた!天才!」ではなく「最後まで諦めずにやれたね」(過程を褒める)
- 難しいパズルを完成→「よくできたね」ではなく「諦めないでやり続けたから完成したね」
3〜4歳:問題解決を「一緒に考える」習慣
- ①何が起こった?——「○○君におもちゃを取られたの?」
- ②どんな気持ち?——「嫌だったんだね。悲しかった?怒った?」
- ③どうすればいいかな?——「どうしたいと思ってる?返してほしい?先生に言う?別のおもちゃで遊ぶ?」
- ④まず何からする?——「じゃあ一緒に話しかけてみようか」
小関氏の視点から——子どもが嫌なことがあった時に「どうすると気持ちが楽になるか」を一緒に探す習慣を作ります。
- 体を動かす(走る・ジャンプする・踊る)
- 誰かに話す(パパ・ママ・ぬいぐるみに話しかける)
- 好きなことをする(絵を描く・音楽を聴く・本を読む)
- 少し休む(好きな場所で横になる)
4〜5歳:「失敗の価値」を伝える
STUDY HACKERで紹介された「格好悪い親であれ」という観点——常に完璧・解決できる親として振る舞うことは「失敗してはいけない」という暗黙のメッセージを子どもに送ります。
計画→実行→失敗→修正というレジリエンスのサイクルを体験できる安全な活動です。
- 種まきから収穫まで(枯れても「水が多すぎたかな?」と一緒に考える)
- 簡単な料理(焦がした体験→「次は火を弱くしよう」)
- 縄跳び・自転車(何度も転んで覚える粘り強さ)
5〜6歳:「振り返る力」を育てる
- 「今日一番嬉しかったのは?」「今日一番難しかったのは?」
- 「うまくいかなかったことは?次はどうする?」
- 「誰かのために何かできた?」(思いやりの視点も同時に育つ)
声かけの言い換えは、場面ごとに整理した記事もあります。急かしてしまうときは「早くして!」が効かない理由と言い換えリスト、貸し借りの場面は2・3歳の「貸して」「どうぞ」声かけ完全ガイド、文字や数の学習でイライラするときはひらがな学習でイライラする3つの理由と解決策が参考になります。
場面別:NGワード→レジリエンスを育む言葉の変換
| 場面 | ❌ 逆効果の言葉 | ✅ レジリエンスを育む言葉 |
|---|---|---|
| 泣いている時 | 「泣かないの!お兄ちゃんでしょ」 | 「泣いていいよ。悲しかったんだね」 |
| 失敗した時 | 「だから言ったでしょ」「もっと気をつけて」 | 「残念だったね。何が難しかった?」 |
| 諦めようとする時 | 「頑張りなさい!諦めちゃダメ」 | 「難しいね。少し休む?別の方法を考える?」 |
| 友達トラブル後 | (すぐに仲裁・解決する) | 「どんな気持ち?○○ちゃんにどうしたい?」 |
| 挑戦を怖がる時 | 「大丈夫!できるよ」(気持ちの否定) | 「怖いんだね。どんなところが心配?一緒に考えよう」 |
| 能力を褒める場面 | 「頭がいいね」「才能があるね」 | 「一生懸命考えたね」「練習した成果だね」 |
| 叱る場面 | 「どうしてできないの!」(叱責) | 「次は頑張ろうね」 |
失敗を極端に怖がる、感覚が敏感で刺激に弱いといった背景がある場合は、子どもの感覚過敏とはやHSCの子どもに合う習い事・合わない習い事もあわせてご覧ください。一つの分野に強い興味を示すタイプならギフテッドの子どもの特徴チェックリスト25項目が該当することもあります。
よくある質問
- 大豆生田:「好き!」と主体性がレジリエンスを育む
- ボーク重子:やりたいことで失敗する体験を見守る
- 小関:自分だけのストレス発散手段を複数持つ
- 野上:異年齢交流で「外でも通じる力」を育てる
- 沢井:「レジリエンスにとらわれすぎない」ことが大切
- 安全基地:全ての基盤——感情を否定しない
- 「頑張れ」→「今は辛いね、一緒に考えよう」
- 「頭いいね」→「一生懸命考えたね」(神戸大研究)
- 「泣かないの」→「泣いていいよ」
- 「大丈夫できる」→「怖いんだね、どこが心配?」
- (すぐ解決)→「どうしたい?一緒に考えよう」
レジリエンスは「折れない強さ」でも「特別なプログラム」でも育ちません。安全基地のある日常・好きなことに夢中になれる環境・失敗から立ち直る親の姿——この3つが、子どもの「しなやかな心」を最も確かに育てます。
非認知能力を育てるという観点では、読み聞かせが最も手軽で効果の裏づけがある方法です(読み聞かせの効果は実証済み)。習い事を検討する場合は子どもの習い事おすすめランキング、続けるか迷ったときは習い事のやめ時の見分け方、早期教育との向き合い方は早期教育のデメリットで整理しています。
※本記事は、大豆生田啓友氏(玉川大学教授)、ボーク重子氏、小関俊祐氏(日本ストレスマネジメント学会)ほか、専門家が公開している見解と、神戸大学・経済産業研究所(RIETI)による褒め方・叱り方に関する調査などをもとに整理しています。子どもの気質や置かれた状況には大きな個人差があり、本記事は診断や医学的助言を目的としたものではありません。気になる様子が続く場合は、お住まいの保健センターやかかりつけの小児科、地域の子育て支援窓口にご相談ください。最終更新:2026年8月11日。
