「お友達は平気なのに、うちの子だけ…」「騒がしい場所に行くと極度に嫌がる」「着る服にこだわりが強すぎる」。幼児教育を考える保護者の皆さまの中には、お子さまの行動に困惑し、どう対応すべきか悩まれている方も多いのではないでしょうか。
もしかしたら、お子さまは感覚過敏という特性を持っているかもしれません。これは病気ではなく、脳の感覚処理の特性であり、適切な理解とサポートによって、お子さまが生き生きと成長していくことは十分可能です。
実際に、定型発達の子どもの15~20%程度にも何らかの感覚過敏が見られることがわかっていますし、感覚過敏のあるこどもたちのうち、約7割は発達障がいの診断基準を満たさないという調査結果もあります。つまり、感覚過敏は珍しいことではなく、適切な対応により多くのお子さまが豊かな生活を送れるのです。
この記事でわかること
- 感覚過敏の基本知識と具体的な症状
- 家庭での実践的な対応方法
- 幼児教育現場での成功事例
- 将来を見据えたサポート戦略
本記事は、10年以上発達支援の現場で働く専門家の知見と、実際に感覚過敏のお子さまを育てる保護者の方々の体験談をもとに構成しています。お子さまの特性を理解し、その子らしい成長を応援するための具体的なヒントをお届けします。
感覚過敏とは?基本知識を理解しよう
感覚過敏の定義
感覚過敏は、日常の中で五感を通じて受ける刺激を過剰に感じる特性です。多くの人が気にならない音や光、匂い、触感などが、感覚過敏のお子さまにとっては大きな苦痛やストレスの原因となることがあります。
DSM-5-TR(米国精神医学会が作成する「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版の2022年本文改定版)では、発達障害の特性の一つとして感覚過敏・鈍麻のような感覚異常があると記載されていますが、感覚過敏は発達障害だけでなく、個々の気質や環境要因によっても現れる特性です。
感覚過敏=発達障害ではない重要なポイント
多くの保護者が心配される点ですが、感覚過敏があるからといって発達障害ではありません。感覚過敏は発達障がいでなくとも、適切な環境調整と理解によって大幅に改善することができます。
実際の現場経験からも、多くのお子さまが家庭での適切な対応によって感覚過敏に上手く適応していくことがわかっています。大切なのは、お子さまの感覚を理解し、その特性に合わせた環境づくりを行うことです。
5つの感覚過敏の種類
感覚の種類 | 主な症状 | 日常でよくあること |
---|---|---|
聴覚過敏 | 特定の音に過剰反応 | 掃除機の音で耳をふさぐ、花火を怖がる |
視覚過敏 | 光やまぶしさに敏感 | 蛍光灯の下で目を細める、白い紙を嫌がる |
触覚過敏 | 肌触りや温度に敏感 | 服のタグを嫌がる、砂場遊びを避ける |
嗅覚過敏 | 匂いに強く反応 | 料理の匂いで気分が悪くなる、洗剤の匂いを嫌がる |
味覚過敏 | 味や食感に敏感 | 偏食が多い、食べ物の温度にこだわる |
これらの感覚過敏は、1つの感覚が過敏な方もいらっしゃれば、複数の感覚が過敏な方もいらっしゃいます。お子さま一人ひとりの特性は異なるため、個別の観察と対応が重要です。
感覚過敏の具体的な症状と見極め方
聴覚過敏の特徴
聴覚過敏のお子さまは、ドライヤーや冷蔵庫などの音のような、生活上で他の人が苦にならない音を怖がることがあります。
よくある症状
- 掃除機の音で泣き出す
- 運動会のピストル音を極度に怖がる
- 騒がしいスーパーなどで耳をふさぐ
- 蛍光灯の「ブーン」という音が気になる
- 時計の秒針の音で眠れない
私たちの指導現場では、聴覚過敏のAくん(4歳)が初めて教室に来た時のことを覚えています。椅子を引く音や子どもたちの笑い声に驚いて、お母さんの後ろに隠れてしまいました。しかし、事前に音の予告をする、音量の調整をするなどの配慮により、3ヶ月後には他の子どもたちと一緒に楽しく活動できるようになりました。
視覚過敏の特徴
視覚過敏は、強い光、色、ゴチャゴチャしている場所などが苦手な場合があり、日常生活でも様々な場面で困りごとが生じます。
よくある症状
- 太陽光でまぶしがって外出を嫌がる
- パソコンやスマートフォンの画面を見るのを嫌がる
- 白い紙のノートが「まぶしい」と言う
- 蛍光灯の下で集中できない
- カラフルな装飾の多い場所を避ける
触覚過敏の特徴
触覚過敏は日常生活への影響が大きく、後ろから近寄られたり、テーブルの下で誰かの足が軽く触れるなど、目に見えないところで触られることを嫌がることが特徴的です。
よくある症状
- 服のタグを「チクチクする」と言って嫌がる
- 特定の素材の服しか着ない
- 砂場や粘土遊びを極度に嫌がる
- 散髪や爪切りの時に大泣きする
- 歯磨きを極度に嫌がる
私たちの指導経験では、触覚過敏のBちゃん(3歳)が工作活動で糊を触ることができませんでした。しかし、筆を使ったり手袋をしたりする工夫により、徐々に様々な素材に慣れ、現在では粘土遊びも楽しめるようになりました。
嗅覚過敏・味覚過敏の特徴
嗅覚過敏や味覚過敏は、食事や外出時に特に問題となりやすく、栄養の偏りが健康に影響を及ぼす可能性もあるため、注意深い対応が必要です。
嗅覚過敏の症状
- 料理の匂いで気分が悪くなる
- 柔軟剤や洗剤の匂いを極度に嫌がる
- 外出先の匂いが原因で外出を嫌がる
味覚過敏の症状
- 特定の食感の食べ物を拒否する
- 温度にこだわりがある
- 偏食が極端で食べられる物が限られる
感覚過敏チェックリスト
お子さまに以下のような行動が複数見られる場合は、感覚過敏の可能性があります。
聴覚面 □ 掃除機や電子レンジの音を嫌がる □ 騒がしい場所で耳をふさぐ □ 突然の音にびっくりして泣く □ 花火や雷の音を極度に怖がる
視覚面 □ 明るい場所を嫌がる、目を細める □ テレビやタブレットの画面を暗くしたがる □ 白い紙を「まぶしい」と言う □ 人混みの多い場所を嫌がる
触覚面 □ 服のタグを切り取りたがる □ 特定の素材の服しか着ない □ 砂場遊びや粘土遊びを避ける □ 散髪を極度に嫌がる
嗅覚・味覚面 □ 特定の匂いで気分が悪くなる □ 偏食が多く、食べられる物が限られる □ 食べ物の温度にこだわりがある □ 新しい食べ物を試したがらない
複数の項目に当てはまる場合でも、当てはまるからといって必ずしも感覚過敏というわけではありません。大切なのは、お子さまの日常生活に支障が出ているかどうかです。
感覚過敏の原因と理解すべきポイント
脳の感覚処理の特性
音や光などの刺激のボリュームを適度に調整する脳の機能が、なんらかの原因によってうまく働かず、大きな音などがそのまま伝わったり、多くの刺激に対して過剰に反応したりすることがあります。
これは、感覚情報を処理する脳の回路が人より敏感に働いているということで、お子さまの努力不足や甘えではありません。私たちが「ちょっとまぶしいな」と感じる光を、感覚過敏のお子さまは「とても痛い」と感じている可能性があるのです。
発達障害との関連性
自閉スペクトラム症(ASD)の方の多くが直面している感覚の問題があり、ADHDやASDの特性がある人では、感覚過敏・鈍麻を併せ持つことが多いとされております。
ただし、重要なのは感覚過敏があっても発達障害ではない場合が多いということです。国立精神・神経医療研究センターの調査(2018)によると、一般的な発達をしているこどもたちの15〜20%程度にも何らかの感覚過敏が見られることがわかっています。
環境やストレスの影響
ストレスが脳に影響を及ぼして、聴覚過敏や視覚過敏の状態が引き起こされる場合があります。ストレスや不安は、多くの感覚過敏の状態と関連すると言われています。
これは実際の指導現場でも実感することで、新しい環境に慣れていない時期や、体調不良の時に感覚過敏の症状が強く現れることがよくあります。逆に、安心できる環境では症状が軽減されることも多いのです。
感覚過敏は「治る」ものではない
感覚過敏を根本的に治療することは難しいですが、成長や訓練を通じて症状を「軽減」したり、「うまく対処」することが可能です。
感覚過敏を治すというより、付き合う方法を見つけていくというイメージが重要です。多くのお子さまが成長とともに感覚過敏への対処方法を学び、適応していくことができます。
家庭でできる具体的な対応方法
基本的な心構え
感覚過敏のある子どもの感覚は、大人とは根本的に異なります。保護者は子どもの感覚的な反応を理解し、無理に「慣れさせる」アプローチを避けることが重要です。
やってはいけないこと
- 「慣れなさい」「我慢しなさい」と強要する
- 「気のせい」「大げさ」と決めつける
- 無理やり苦手な刺激にさらそうとする
大切にしたいこと
- お子さまの感覚を認める
- 一緒に対処法を見つける
- 小さな成長を見逃さずに褒める
聴覚過敏への家庭での対応
環境調整
- イヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホンの使用
- 大きな音が出る前に予告する(「これから掃除機をかけるよ」など)
- 静かな「避難場所」を家の中に用意しておく
実践的な工夫
- 掃除機をかける時間を事前に伝える
- 音楽を小さめの音量で慣れさせる
- お子さまが安心できる「静かな部屋」を作る
私たちの指導で成功した事例では、聴覚過敏のCくん(5歳)のお母さんが「音の予告カード」を作成しました。掃除機のイラストと「10分後にお掃除するよ」という文字を書いたカードを見せることで、Cくんは心の準備ができ、パニックを起こすことが劇的に減りました。
視覚過敏への家庭での対応
照明の工夫
- 間接照明を活用する
- カーテンで光量を調整する
- サングラスや帽子を活用する
画面との付き合い方
- タブレットやスマートフォンの明度を最低に設定
- ブルーライトカットフィルムを使用
- 使用時間を短時間に調整
触覚過敏への家庭での対応
衣服の選び方
- タグのない衣類を選ぶ(最近はタグレス商品も増えています)
- お子さんが快適と感じる素材の衣類を選ぶ
- 縫い目が平らな服を選ぶ
日常ケアの工夫
- シャンプーのときは「泡が目に入らないシールド」を使う
- 歯ブラシは柔らかめを選ぶ
- 爪切りは電動式を試してみる
遊びでの配慮
- 手袋をつけて砂場遊びをする
- 筆やスプーンを使って素材に触れる
- 徐々に直接触れる時間を増やす
嗅覚・味覚過敏への家庭での対応
食事環境の整備
- 換気を良くして匂いを軽減する
- 調理中は別の部屋で過ごしてもらう
- 好きな匂い(お気に入りのタオルなど)を持参する
食事の工夫
- 子どもが好む温度(冷たい飲み物、温かいスープなど)を優先する
- 柔らかい食品を提供し、徐々に硬さや食感を変えて慣れさせる
- 苦手な味に少量から挑戦し、少しずつ味に慣れる機会を作る
実際の成功例として、味覚過敏のDちゃん(4歳)は、最初は白いご飯しか食べませんでした。しかし、ご飯に少しずつふりかけを混ぜることから始め、半年後には様々な具材の入ったおにぎりを食べられるようになりました。
不安軽減が最も重要
感覚過敏の最も大事な対策として、不安を軽減することが挙げられます。子どもに不安があると、それに伴って感覚過敏の症状が出てくる場合があります。
不安軽減の方法
- 視覚的支援:絵や写真などで今からの予定を伝えたり、手順を視覚的に示す
- 安心グッズ:安心できるグッズを持っておくことが効果的
- 安全な場所:この空間に行けば不快刺激から離れることができる安全基地のような場所を用意する
幼児教育現場での成功事例と対応策
保育園・幼稚園での環境調整
私たちが関わった保育園では、感覚過敏のお子さまたちが安心して過ごせるよう、以下のような環境調整を行いました。
音環境の配慮
- 一日の流れを事前に伝える「今日の予定ボード」の設置
- 音が大きくなる活動(音楽、体操など)の事前予告
- 静かに過ごせる「クールダウンスペース」の設置
視覚環境の配慮
- 蛍光灯の一部を消して照度を下げる
- カラフルな掲示物を控えめにする
- 個別の席を設ける
実際の成功事例:Eくんの場合 聴覚過敏のあるEくん(5歳)は、入園当初、給食の時間になると泣いてしまいました。食器の音や子どもたちの声が重なることが辛かったのです。
そこで担任の先生が以下の対応を行いました:
- Eくんだけ5分早く給食を開始
- 他の子どもたちには「静かに食べる時間」として声をかけ
- 徐々に他の子どもたちと同じ時間に調整
3ヶ月後、Eくんは他の子どもたちと一緒に楽しく給食を食べられるようになりました。
集団活動への参加支援
段階的参加の工夫
- 観察期間:まずは活動を見学する
- 部分参加:短時間から参加する
- フル参加:他の子どもたちと同じように参加する
実際の成功事例:Fちゃんの場合 触覚過敏のあるFちゃん(4歳)は、みんなで行う粘土遊びに参加できませんでした。しかし、以下のステップで段階的に参加できるようになりました:
1週目:粘土遊びを見学(他の子の作品を見る) 2週目:スプーンを使って粘土を触る 3週目:手袋をつけて粘土を触る 4週目:短時間だけ素手で粘土を触る 5週目:他の子どもたちと一緒に作品作り
個別支援計画の作成
支援計画に含める要素
- お子さまの感覚過敏の特性
- 日常生活での困りごと
- 効果的だった対応方法
- 段階的な目標設定
項目 | 内容例 |
---|---|
現在の状況 | 大きな音に対して耳をふさぎ、パニックになることがある |
短期目標 | 音が大きくなる前の予告により、心の準備ができるようになる |
中期目標 | イヤーマフを使用して音の活動に参加できるようになる |
長期目標 | 徐々にイヤーマフなしでも短時間参加できるようになる |
他の子どもたちへの理解促進
感覚過敏への理解は、お子さま本人だけでなく、周りの子どもたちにも広めることが重要です。
年齢に応じた説明
- 3-4歳:「○○ちゃんは音が苦手だから、静かにしてあげようね」
- 5-6歳:「みんなが感じ方が違うように、○○ちゃんは音や光をより強く感じるんだよ」
実践的な取り組み
- 「みんな違ってみんないい」をテーマにした読み聞かせ
- 感覚体験ゲーム(アイマスクをして触覚体験など)
- お互いの違いを認め合う活動
これらの取り組みにより、感覚過敏のお子さまも周りの子どもたちも、お互いを理解し合える環境づくりができます。
発達段階に応じたサポート戦略
0-2歳(乳幼児期)
この時期は、お子さまの感覚特性を把握し、快適な環境を整えることが最優先です。
観察のポイント
- 特定の音に対する反応
- 光の強さに対する反応
- 抱っこや触れられることへの反応
- 食事時の様子
家庭でのサポート
- 静かで落ち着いた環境を心がける
- 刺激の少ない玩具を選ぶ
- お子さまのペースを大切にする
私たちが関わった0歳のGちゃんは、お母さんの声以外の音で泣いてしまうことがありました。しかし、お母さんが常に声をかけながらケアをすることで、徐々に他の音にも慣れていくことができました。
3-4歳(幼児期前期)
この時期から、お子さま自身が感覚過敏について理解し、対処法を覚え始めることができます。
理解促進の工夫
- 簡単な言葉で感覚について説明する
- 「痛い音」「痛くない音」など具体的に表現する
- 対処法を一緒に練習する
自立への支援
- イヤーマフの使い方を教える
- 「嫌なときは教えて」と伝える
- 成功体験を積み重ねる
実際の指導例:Hくんの場合 聴覚過敏のHくん(3歳)に、音の大きさを「1(小さい音)から5(大きい音)」の数字で表現することを教えました。Hくんが「今4だから嫌だ」と伝えられるようになり、周りの大人も適切な対応ができるようになりました。
5-6歳(幼児期後期)
この時期は、社会性の発達と感覚過敏への対処のバランスを取ることが重要です。
社会性の発達支援
- 集団活動への段階的参加
- 自分の気持ちを言葉で表現する練習
- 友達との関わり方の学習
将来への準備
- 小学校生活に向けた準備
- より複雑な環境への適応練習
- 自己理解の促進
成功事例:Iちゃんの場合 視覚過敏のIちゃん(6歳)は、小学校入学を控えて不安を感じていました。そこで、実際に小学校を見学し、教室の明るさに慣れる練習を行いました。また、担任の先生とも事前に相談し、座席の位置や照明の調整について相談しました。結果として、Iちゃんは安心して小学校生活をスタートできました。
成長段階での変化
感覚過敏はこどもの成長とともに変化・改善することが多いです(多くの場合は和らいでいきます)。実際の指導現場でも、適切なサポートにより多くのお子さまが感覚過敏と上手に付き合えるようになっています。
成長による変化の例
- 3歳:掃除機の音で泣いていた → 6歳:イヤーマフをつけて同じ部屋にいられる
- 4歳:特定の服しか着られない → 7歳:複数の素材の服を選択できる
- 5歳:新しい食べ物を拒否 → 8歳:少しずつ新しい味に挑戦できる
専門機関との連携と相談のタイミング
いつ専門機関に相談すべきか
感覚過敏が日常生活や学校生活に著しい支障をきたしている、家庭での工夫だけでは改善が見られない場合は、専門機関への相談を検討しましょう。
相談を検討するタイミング
- 感覚過敏によって社会参加や学習機会が制限されている
- 感覚過敏から二次的な情緒的問題(不安や自己肯定感の低下など)が生じている
- 4歳を過ぎても感覚過敏が強く、適応できていない
小児科学会のガイドラインでは、これらの徴候が3か月以上継続する場合は専門家への相談を推奨しています。
相談できる機関
地域の支援機関
機関名 | 対象年齢 | 主なサービス内容 |
---|---|---|
保健センター | 0歳~ | 乳幼児健診、子育て相談、発達相談 |
子ども家庭センター | 0~18歳 | 総合的な支援、専門相談、関係機関との連携 |
児童発達支援センター | 主に未就学児 | 個別支援、集団療育、保護者支援 |
発達障害者支援センター | 全年齢 | 専門的な相談、情報提供、支援計画作成 |
医療機関
- 小児科(まずは身体的な原因の確認)
- 精神科・心療内科(必要に応じて)
- 各専門科(眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科など)
相談前の準備
記録をつけておくと良い項目
- どんな時に症状が現れるか
- どの程度続くか
- どんな対応が効果的だったか
- 日常生活への影響
実際の記録例
日付:2025年3月1日
時間:朝8時30分
状況:掃除機をかけ始めた時
反応:耳をふさいで泣き始める
対応:事前に予告すると少し落ち着く
継続時間:約10分
このような記録があると、専門機関での相談がより具体的で効果的になります。
保護者向けサポートプログラム
感覚過敏のあるお子さんの保護者向けに、以下のようなトレーニングプログラムがあります。
主なプログラム内容
- ペアレント・トレーニング:こどもの感覚特性に応じた関わり方を学ぶプログラム
- 感覚処理サポートプログラム:家庭で実践できる感覚統合活動を学ぶプログラム
- ストレス・コーピング・プログラム:保護者自身のストレス管理法を学ぶプログラム
調査では、これらのプログラムに参加した保護者の約85%がこどもへの対応に自信を持てるようになったと報告されています。
保護者自身のケアとストレス管理
保護者のストレスは自然なこと
感覚過敏の子どもをサポートする過程で、保護者自身も多大なストレスを感じやすいことを理解しておくことが大切です。これは決して保護者の方が弱いからではなく、非常に自然なことです。
よくある保護者の悩み
- 将来への不安
- 周囲の理解不足による孤立感
- 日常的な対応の大変さ
- 自分の対応が正しいかわからない不安
私たちが関わった保護者の方々からも、「毎日が試行錯誤で疲れる」「他の子と比べてしまう」「この先どうなるのか不安」といった声をよく聞きます。
保護者のストレスケアの重要性
保護者の方のストレスケアは、感覚過敏を持つ子どもにとっても重要です。保護者の方の心が疲弊してしまうと、子どもはそれを感じ取ってしまうこともありますので、ご自身のケアにも意識を向けることがお子さんのより良いサポートへと繋がります。
具体的なストレス管理方法
日常的にできること
- 定期的に自分の時間を確保し、趣味や運動、友人との交流などでストレスを発散する
- 十分な睡眠時間を確保する
- バランスの取れた食事を心がける
- 深呼吸や軽いストレッチを習慣化する
サポートネットワークの活用
- 家族や友人に話を聞いてもらう
- 同じような経験を持つ保護者との交流
- 専門家のカウンセリングやサポートグループへの参加
実際の成功例 Jくんのお母さんは、感覚過敏のお子さまを持つ保護者の会に参加することで、大きな支えを得ました。「同じような経験をしている人たちと話すことで、自分だけじゃないんだと安心できた」と話してくださいました。
完璧を求めすぎないことの大切さ
感覚過敏のお子さまの子育てに「正解」はありません。お子さま一人ひとりの特性が違うように、最適な対応方法も異なります。
心がけたいポイント
- 小さな変化や成長を見逃さない
- うまくいかない日があっても自分を責めない
- 試行錯誤することを恐れない
- 「今日はこれができた」という視点を大切にする
私たちの指導現場でも、保護者の方には「100点を目指さず、今日は60点でも大丈夫」とお伝えしています。継続的なサポートには、保護者の方の心の余裕が不可欠です。
将来を見据えた長期的なサポート
感覚過敏は「個性」として捉える
敏感な感覚は、将来素晴らしい才能になることもあります(芸術家や料理人など)。感覚過敏を「困りごと」としてだけでなく、お子さまの持つ「特別な感性」として捉えることも大切です。
感覚過敏が活かされる職業例
- 音楽家(聴覚の敏感さ)
- 美術家・デザイナー(視覚の敏感さ)
- 料理人・ソムリエ(味覚・嗅覚の敏感さ)
- 品質管理・検査技術者(触覚の敏感さ)
自己理解と自己表現力の育成
将来にわたって感覚過敏と上手に付き合っていくために、お子さま自身の自己理解と自己表現力を育てることが重要です。
年齢別の目標
年齢 | 自己理解の目標 | 自己表現の目標 |
---|---|---|
3-4歳 | 「音が嫌」「光が嫌」など感覚を言葉にする | 嫌な時は「嫌だ」と言える |
5-6歳 | 自分の特性を簡単に説明できる | 対処法を自分で選択できる |
小学生 | 感覚過敏について理解し説明できる | 周囲に配慮を求めることができる |
社会参加への準備
感覚過敏があっても、適切なサポートにより社会の様々な場面で活躍することは十分可能です。
段階的な社会参加の促進
- 家庭内での安定した関係構築
- 少人数グループでの活動参加
- 地域コミュニティでの活動参加
- 学校での集団生活
- より広い社会での活動
実際の成功例:Kちゃんの場合 触覚過敏のあるKちゃん(現在12歳)は、幼児期には砂場遊びもできませんでした。しかし、段階的なサポートにより、現在は陶芸クラブで活動し、将来は陶芸家になることを夢見ています。「最初は粘土も触れなかったのに」とお母さんは感慨深く話してくださいます。
環境の変化への対応力
お子さまが成長する過程で、環境は大きく変化します。その変化に適応する力を育てることも重要です。
環境変化への準備
- 新しい環境の事前見学
- 変化に対する心の準備
- 対処法の般化(他の場面でも使えるようにする)
- サポートを求める力の育成
支援技術の活用
現在、感覚過敏をサポートする様々な技術や道具が開発されています。
活用できる支援技術
- ノイズキャンセリング技術
- 感覚に配慮した衣類・用品
- アプリケーションによる環境制御
- VR技術を使った環境適応訓練
これらの技術を適切に活用することで、お子さまの生活の質を大きく向上させることができます。
まとめ:感覚過敏の子どもの無限の可能性
感覚過敏のお子さまを育てる保護者の皆さまにとって、毎日が挑戦の連続かもしれません。しかし、適切な理解とサポートにより、感覚過敏のお子さまたちは素晴らしい成長を見せてくれます。
重要なポイントの再確認
- 感覚過敏は病気ではなく、お子さまの特性
- 感覚過敏があることは発達障がいを意味するものではなく、むしろ「人それぞれ違って当たり前」という多様性の一部
- 適切なサポートで大きく改善
- 環境をちょっと工夫するだけで、グッと楽になることもあります
- 早めに理解して対応してあげると、お子さんも楽になります
- 成長とともに変化
- 子どもは成長を通じて感覚過敏への対処方法を学び、適応していくことが多いです
- 保護者のケアも重要
- お子さまをサポートするためには、保護者の方自身の心の健康も大切
私たち専門家からのメッセージ
10年以上の指導経験の中で、感覚過敏のお子さまたちの成長を数多く見てきました。最初は小さな音にも驚いていたお子さまが、数年後には合唱コンクールで美しい歌声を響かせたり、触ることを嫌がっていたお子さまが創作活動に夢中になったりする姿を見ると、子どもたちの適応力と成長の可能性に驚かされます。
大切なのは
- お子さまの感覚を理解し尊重すること
- 無理をさせず、お子さまのペースを大切にすること
- 小さな成長を見逃さず、それを一緒に喜ぶこと
- 完璧を求めず、今日できることから始めること
希望に満ちた未来に向けて
感覚過敏は、お子さまの人生における一つの特性に過ぎません。適切なサポートと理解により、感覚過敏のお子さまたちは、その特性を活かしながら、豊かで充実した人生を送ることができます。
毎日の小さな積み重ねが、お子さまの大きな成長につながります。保護者の皆さまの愛情深いサポートと、周囲の理解により、感覚過敏のお子さまたちの無限の可能性が花開くことを心から信じています。
一人で悩まず、専門機関や同じ経験を持つ保護者の方々とつながりながら、お子さまの成長を支えていってください。そして、困った時はいつでも専門家に相談することを忘れないでください。
お子さまの明るい未来のために、私たちも全力でサポートしていきます。
参考情報・相談窓口
- 厚生労働省発達障害情報・支援センター
- 地域の保健センター
- 児童発達支援センター
- 感覚過敏研究所「かびんの森」コミュニティ
※感覚過敏について心配なことがある場合は、まずはお近くの保健センターや小児科にご相談ください。